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『レジェンズシート』から考える #私ならこうする

今シーズン、はじめて念願のレジェンズシートを体験した。
レジェンズシートとは巨人が提供しているイベントシートで、レジェンド級のOB選手(たいていは巨人OBと相手チームのOBのコンビ)の解説が聞ける席だ。
試合開始前にイヤホンが配られ、数m先で解説するレジェンドOBの姿を見ながら試合観戦ができる上に、運が良ければ自分の質問が読み上げられ、レジェンドが答えてくれるというサービスもある。
席の価格は約15,000円と通常の席に比べればかなり高額ではあるものの、球場にいながら生解説を聞ける体験自体が貴重なため、私が観戦した日もほとんど空席はなかった(そもそもエース菅野の登板日だったので全体的にチケットは売り切れだったのだけど)。

美術館でよく目にするイヤホンガイドのような機械を受け取り、イヤホンを耳につければ、レジェンドたちの軽妙なトークがはじまる。

個人的に意外だったのは試合内容の解説よりも過去の思い出や質問への回答の比率が高かったことで、そのとき『このシートはレジェンド選手のファン向けなのだ』と理解した。
ちなみに私が行った試合のレジェンドは定岡正二さんと北別府学さんの2人で、『(高木)豊さんちみたいに三兄弟全員がサッカー選手になることもあるからな〜笑』など、コアな野球ファン以外を置いてけぼりにするトーク満載で大変楽しい解説だった。

私はまだプロ野球をちゃんとみはじめて10年ほどなので好きな選手はまだ現役選手が多いが、あと10年ほど経って自分のお気に入り選手がレジェンド解説に表れたら、レジェンズシートをポンと買ってしまうだろう。
そのくらい、ファンにはたまらない特別な体験だった。

一方で、私個人としては試合をしっかり見たいタイプでもある。
自分でプレイしたことがないので体感としてはわからないものの、配球のかけひきや守備位置のとり方、継投策などもあれこれ考えながら観戦したいし、できればそうした戦略面の解説がうまい人の解説を聞きたいと常日頃から思っている。

この1年、DAZNで毎日のように中継を見ながら解説を聞く中で『この人の解説が面白い』と思ったのは高木豊さんと里崎智也さん。
なぜ今この球種を投げたのか、ここからどう点を取りにいくか、守る側はどんな打球を警戒しているかなど、選手の心理と監督の戦略をかけあわせながら巧みに解説していく。

しかし解説は人によって当たり外れが大きく、面白くない日はまったく面白くないので、贔屓チームの試合がない日には対戦カードよりも解説者で観戦試合を選んでいたほどだ。

もっといえば、現地観戦した日の解説者がいい人だった日は『損した』とさえ思う日もあった。
『しまった、解説を聞き逃した』と思ってしまったかだ。

もちろん聴こうと思えば現地でDAZNを立ち上げて解説を聴けばいいのだが、動画配信はどうしても現地観戦と比べてタイムラグがある。
後から復習として聞き直すにしても、野球の試合は3時間もあり、さらに明日もまた新しい試合がある。
試合の解説はその日にリアルタイムで聞かなければ、なかなか聞き直すことは難しい。

しかし今回レジェンズシートでレジェンドの生解説を体験してみて、『解説を現地で聞きたい』というニーズは意外とあるのではないか?と思った。
それもファンとの交流など一切排除して、淡々と目の前の試合を解説してくれる解説のニーズが。

私はよく非野球ファンの友人たちを試合観戦に(なかば強引に)連れていくのだけど、そのときにアピールするのは野球の応援の面白さである。
野球初心者がはじめにハマるのは独特の応援であり、有名な広島のスクワット応援やヤクルトの傘、前奏のある山田哲人や筒香の応援歌、森友哉のベイビーシャーク、ヤスアキジャンプなどパフォーマンスが伴うものは特に人気が高い。

私もこの応援スタイルに魅了された人間の一人だが、そこからまた一歩沼にハマると今度は競技自体に興味を持つようになる。
特にひとりでふらりと試合をみにいくようになると、得点時には傘こそ出すものの、他の時間は声も出さずじっと試合に見いることもざらである。

ちなみに平日の都市対抗野球などをみにいくと前列にずらりと並んだおじさまたちが一様にスコアブックをつけている光景に驚くことがあるが、プロ野球においても同じ属性の人たちがチケットを買い支えているのではないかと私は思っている。

ただ、現地観戦の難点は前述の通り解説が聴けないことである。
私は野球専用のTwitterアカウントを眺めながらTwtter識者たちの解説をチェックしたりしているが、願わくば中継とおなじように音声で解説を聞きたい。

目線はなるべく試合に集中させておきたいからだ。

私のような人種がどのくらいいるのかは定かではないけれど、選手をアイドルかして消費するのではなく野球という競技自体にファンを増やして資産化していくためには、むしろ現地で解説を聞きたい人種を増やしていくことも必要なのではないかと個人的には思う。

ちなみに事業的な観点から考えてみると、レジェンズシートのエリアは縦26席、横10席の1ブロック2つ分を半分にした程度の広さなのでレジェンドの席分を潰したとしておそらく250席前後だと思われる。
つまり満席になったとして単純計算で15,000円×250席=375万円だ。
とはいえもともとこのエリアの席の値段は5,000円はくだらないはずなので(実際はシーズンシートエリアなので算出は不可能なのだけど)、レジェンズシートとしての付加価値は1万円程度ではないかと考察できる。
とすると250万円前後がレジェンズシートとしての純粋な売上になるわけだが、ここからレジェンズ2人と実況担当への支払い、さらにレジェンズシート専用スタッフの人件費が加わる。

個人的にレジェンズシートで驚いたのは、そのサービスの手厚さとスタッフの数だ。
機械の受け取りに常時2、3人いるのは当たり前としても、貸し出し時に名前をチェックして受け取りにきていない観客を割り出し、試合開始前に席まで機械を持参して貸し出す手厚さ。
さらに質問用紙の回答のためにも常時巡回しており、ときどき使い方のわからない観客への対応もしていた。
その時間も貸し出しカウンターには別のスタッフが対応しなければならないのだから、少なく見積もっても10人近くのスタッフが必要となるはずだ。

こうして経費を考えてみると意外と利益幅はそこまで大きくないのではないか、と試合観戦後にいらぬ心配をしてしまった。

おそらくここまで人数をしぼって手厚くサポートをしているのは機械の盗難を防止する意味もあるのだろうが、たとえばファンクラブの最高位(プラチナやゴールドなど各球団によって異なる)のみに限定したサービスにすれば個人も特定でき、ファンクラブ入会者も増えて一石二鳥なのではないか。
もっといえば、デポジット製にして万が一機械が返却されなかった場合はお金が返却されない仕組みにすれば解決できる問題である。

さらに、観客数は東京ドームの場合最大で5万人、少なくとも常時3万人はくだらないはずだ。
その場で解説を聞きたいと思うような酔狂なファンの割合がたとえ数%だとしても、1000人程度はいる計算になる。
この1000人に3,000円で貸し出せば300万円になり、レジェンズシートの売上とそう変わらない売上になる。一方で質問用紙の回収をする必要もないし、大金を投じた席なわけでもないので手厚いサポートも不要なため、経費はレジェンズシートよりも安くてすむはずだ。

もちろんこの試算はすべて勝手な予想であり、実際の手間がどのくらいかかるのか、またイヤホンガイドそのものへの投資金額など超えるべきハードルも多々ある。

しかし野球がレジャーの一種として市民権を得はじめ、ライトファンが増えてきた時期だからこそ、ライトファンをより深いファンに誘うような施策、そして何度も球場に訪れる根強いファンがさらにお金を落としたくなるような施策がそろそろプロ野球全体に求められているのではないかと思うのだ。

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