情報の「ラストワンマイル」
小売・物流の世界には「ラストワンマイル」という言葉がある。
ECでの購入品を顧客の居住エリアまで届けることはそう難しくない。
しかし近隣の営業所から顧客宅までのたった1マイル(約1.6km)に、どの事業者も悩まされている。
現在は多くの人が自宅で過ごしているが、普段であれば平日は仕事で不在、土日もでかける用事があって不在にするなどして受け取れないことがよくあるからだ。
このラストワンマイルの問題を解消するために、コンビニ受け取りや宅配ロッカーの駅前への設置など様々な施策が行われてきた。
さらに最近ではロボットを活用した配送システムの実験も行われている。
「届ける」という行為は、顧客に受け取ってもらう瞬間の設計が、実は一番難しい。
顧客によってライフスタイルが異なるため便利な方法は人によって異なり、さらに同じ人でもそのときの状況によって受け取りやすい方法が変わる。
いかに負担なく受け取ってもらえるかはこちらが試行錯誤するしかないのだ。
そしてふと、これはWebの世界でも同じなのではないかと気づいた。
オンラインでコンテンツやサービスを作るハードルはどんどん下がっている。
特にコンテンツは、今や素人でも動画を作って配信できる時代である。
しかしハードルが低くなったからこそ、競争率も上がり、なかなか見てもらえない・使ってもらえないという悩みもでてきている。
Webの世界も、作って世の中に配信するまではできても、そのあとの「ラストワンマイル」で苦戦する。
顧客に受け取ってもらうためにライフスタイルにあわせた調整が必要になるのは、オンラインの世界もオフラインの世界も同じことだ。
ただ、オンラインの場合は届けるための設計のみならず、中身も使い手に寄り添うことが不可欠だ。
せっかく届いても、使いづらいWebサービスやわかりづらいコンテンツは容易に離脱が起きる。
こちらが伝えたいことではなく、相手が欲しいものを理解し、わかりやすい言葉や導線に「翻訳する」必要があるのだ。
たとえばコンテンツひとつとっても、プロが専門知識を詰め込んでいれば人気が出るわけではない。
プロの世界では当たり前でも一般の人にとっては知らない、わからないことが多いため、その差を埋める工夫ができる人が人気を得る。
専門性が高いことと影響力があることが必ずしもイコールではないのもこのためだ。
Webサービスも、どんなに便利な機能があっても直感的にわからないものは使われず、結果的に便利さを体感してもらえないまま離脱につながっていく。
Webの世界における「ラストワンマイル」とは、届け方よりもむしろ届いたあとにどう使いこなしてもらうか、どう理解してもらうかのことなのではないか。
そしてこのラストワンマイルの設計こそが、「顧客に寄り添う」ということなのだと私は思う。
今、多くの企業がWebの世界に活路を見出そうとしている。
しかしそれが成功するかどうかは、ラストワンマイルへの向き合い方にかかっている。
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