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イノベーターがエスタブリッシュな世界で評価されるということ

先日、友人と「カツセさんめっちゃすごいよね」という話になった。かれこれ1時間くらいはその話題で盛り上がっていた気がする。

話のきっかけはカツセさんが最近出版した小説だった。

カツセさんといえば、Twitterを使っている人であれば必ず一度は目にしたことがあると言っても過言ではないほどの有名人である。彼の文章のファンも多いし、Twitterでも呼吸をするように数百RTを集める。

そのまま既存の仕事を淡々と続けていくだけで十分に生きていけるレベルの人が、これまでのキャリアの延長線上にはない分野で新しく挑戦をしたこと。しかもエスタブリッシュな世界に挑戦して結果を出していることが、素直に「すごい」と思った。

誤解を恐れずに言えば、Web上に記事を公開して生計を立てている人にとって本を出すこと自体はそう難しいことではない。これまで公開してきた記事やツイートをまとめれば立派に本になるし、SNS上にファンが多い人であればある程度は買ってもらえる。

おそらくカツセさんも今まで星の数ほどそうしたオファーを受けてきたはずである。しかしあえて書き下ろしを選び、しかも小説というエスタブリッシュな世界に挑戦したことは、今Webの世界で生きている人たちのキャリアに新たな道を示したように思う。

もちろんWebの記事をベースにして本にまとめるのも大変な作業であり、新たな価値を作り出している。
ただ、すでに評価されている場所とは異なる分野に挑戦することは、よほどの覚悟がなければできないことだと思うのだ。

そしてもうひとつ感じたのが、Webから伝統的な業界に挑戦する人がでるくらいWebの世界が成熟してきたのだなということ。

Webの世界は、長らく「辺境」であった。それはつまりイノベーターの住処だったということでもある。
過去の因習に縛られず自由に活動する人たちが集い、新しい価値を生み出してきた。

しかしWebが勢力を増すにつれ、エスタブリッシュの世界とイノベーターの世界で「人事交流」が起きるようになる。

まずはじめに起きたのは、エスタブリッシュ側がイノベーターの世界に「降りてくる」現象だ。芸能人がこぞってInstagramをはじめ、YouTubeの世界に進出してきた流れがその最たる例である。

その次に起きたのが、イノベーター側のエスタブリッシュ側への進出である。雑誌はこぞってインスタグラマーを取り上げるようになり、TVでユーチューバーを目にする日も増えた。お笑い芸人に関してはもはやユーチューバーとの垣根がなくなりつつあるようにも見える。

これまではどんなに人気が出てもあくまで「Webの世界の人」として扱われてきたため、キャリアもWebの世界の中で過去の延長線上でしか考えることができなかった。

しかし今やその垣根は崩れ始め、どの業界でもイノベーターがエスタブリッシュな世界で評価される可能性が生まれてきた。カツセさんのように、Webで成功した人がエスタブリッシュな世界でも評価され人気を得る例はこれから増えていくかもしれない。

ただイノベーターの世界とエスタブリッシュの世界では評価のルールが異なる。スタートアップの創業者が一部上場企業の役員としても活躍できるとは限らないように、両方で評価を得るのは誰にでもできることではない。

だからこそこれまで挑戦する人がほとんど出てこなかったのである。

Webの世界は自由だ。しかしその自由は影響力が少ないからこその自由でもある。社会的な影響力を得ようとすれば様々な縛りが生まれる。

「自分のことを好きな人にだけ評価してもらえればいい」とは言い切れない世界が、そこにはある。

今、Webの力によってあらゆる業界で力のあるイノベーターが生まれている。テレビタレントよりも人気の高いYouTuberもたくさんいるし、既存のアパレルブランドよりも稼いでいるD2Cブランドも生まれてきている。飲食店がECとSNSによってお取り寄せとして人気を得る例も出てきた。そのうち、EC専売ではじめた食のブランドがフラッグシップとして実店舗を構えるという順番が当たり前になる時代もくるかもしれない。

この次のフェーズとして起きるのは、彼らがエスタブリッシュな世界でも評価を受けることなのではないかと思う。

YouTuberがお笑いグランプリで賞を獲ったり、D2Cブランドがコレクションに出たり、EC発の人気店がミシュランの星を獲得したり。

あえてこうした従来の評価に当てはめられないことを選ぶ人もいるかもしれないが、連綿と受け継がれてきた評価には強いブランド力がある。保守的な層も含めて幅広い人たちに届けるには、従来の基準に照らし合わせて評価される必要があるのもまた事実だ。

この2つの世界は本来優劣があるものではなく、異なるルールを持つ「別の世界」である。

有名人であればWebの世界でも簡単に人気が得られるわけではないのも、エスタブリッシュな世界と根本的にルールが異なることに理由がある。

だからこそ今後両方の世界を行き来する越境人材の価値がますます高まっていくのではないかと思うのだ。

***

有料パートは、前段の話を踏まえてビジネス界のイノベーターにとって目指すべきエスタブリッシュとは何かについての話です。

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