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カオスな3人の覚え書き

去年の秋に私が出会った、奇妙な3人組との思い出を話したい。

ひとりめとはTinderで知り合った。私はその頃、ただ喫茶店でとりとめのない話ができる相手を探していた。彼はプロフィールによくわからない彫刻の写真だけを載せていて、一言にはよくわからない格言を書いていた。顔も目的も不明だったので、本当に純粋な興味本位でスワイプした。
マッチして話すと、気難しそうなプロフィールとは裏腹にちゃんとした返信をくれる方だなと思った。私の言ったことをすべて拾い上げ、気持ちよく会話が続くように愛想のある文章を送ってくれた。

まもなく、私たちは河原町にあるフランソア喫茶室で会う約束をした。列に並んでいる私に合流した彼は鬱々と暗くてぎこちない様子で、まさに絵に描いたような虚ろな目が印象的だった。よって、以下彼を「虚目さん」と呼ぶ。

ふたりでケーキを食べながらお互いのことについて教え合う中で、虚目さんは少しずつ笑顔を見せて穏やかに話すようになった。彼は私の4歳年上で、浪人したか留年したかで、当時大学4回生だった。虚目さんはそのときのお会計を奢ってくれた。(後になって私は、彼が金欠の極みであることを知った。)

虚目さんは頭が良かった。お店を出て鴨川を歩きつつ、私たちは思考を共有し合った。彼はスピノザが好きだと言っていた。私が高校時代の薄い倫理の知識を口に出すと、だいたいそんな感じですと返された。100年後の世界で残っているものは何だと思いますか、と橋の下で彼に訊かれて、とっさに答えられなかった。私のバイト前に私たちはラインを交換して別れた。

それからまもなく、地元の友人が京都に来るので一緒に会いませんか、と虚目さんが誘ってくれた。今考えると奇異なお誘いである。その友人は自称芸術家らしい。

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