夜
5時まで起きていた。このまま、ずっと夜ならいいなと思ったけれど、いつのまにか朝を迎えていた。正確には昼。眩しいほどに晴れていた。
ご飯をかきこみ、洗濯をして、髪に丁寧にアイロンをかけ、そしてインターン先へ向かった。
心配していたがとくに大事は起きず、20時45分に退勤した。バス停から空を見上げると、高いところに月があった。それをしみじみと眺めた。1時間後には恋人に会える。
それは、私が中秋の名月を理由に彼との約束を取り付けたからであり、風物詩を逢瀬の口実にするのは、四季を巡る楽しみのひとつだと思う。
月見バーガーか王将行こうよ、というナイスな恋人のラインに、行くー!!と返してからバスに乗った。
静かな車内で、中毒性の高いポップな曲をたくさん聴いた。たとえばpeanut buttersの「ヴヴヴ」。疲れたからだには、知らない曲ではなく知っている好きな曲を大音量で流し込むのがよい。
恋人の家に着いた。彼は旅行先のお土産クッキーをくれた。ねこのかたちだった。
一緒に外に出た。さっきまで雲隠れしていた月はひとりで清潔に佇んでいた。私は何度も振り返っては、ちらちらとそれを見た。今夜は一応月見デートだったものの、ふたりとも、たまに歩きしな空を見上げ、しんみりともせず、ただ月がみえるねと言い合うだけだった。
結局、王将に行った。テイクアウトで餃子と天津炒飯と回鍋肉を頼んだ。待っているあいだ、彼は来週の旅行の交通手段について色々と調べ、比較しようと画面を見せてくれた。しかし眠すぎた私の頭にはまったく入ってこなかった。
ドラッグストアでビールとプリンを奢ってもらった。私が春学期フル単だったことの祝杯だと言われた。
帰り道、あやしい宗教施設を目にした。俺は思想を盾にしているやつが嫌いだ、と彼は笑った。彼にとっては、自分自身の考えがないことがだめらしい。
帰宅してからシャワーを借りた。そのあとは、ぜひ観てほしいんだよといって彼がすすめた『ベイビーわるきゅーれ』をテレビで流しつつ、買ってきた王将飯を頬張った。あんなにお腹が空いていたのに、しばらくするとふたりとも満腹になって食べきれなかった。量を舐めていた。
ねむいと言いながらベッドに横になった彼に抱きついた。はなれて残りのビールを飲んで、だらだらとして、また一緒に寝転んで、彼が電気を消した。
彼は眠っている、健康的に。
私はまだ夜を続けていたかった。
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