非日常

140円のオールカラオケをして、朝5時前に外へ出た。冷房の効いた室内と屋外の温度差、それとアルコールと睡眠不足で、一瞬気分が悪くなった。

もう白んだ空の下では、なんとなく寄る辺がなかった。一緒に来ていた、同じ寮に住む友達とゆっくり歩いて帰った。
今日、万が一地震が起きてみんなとお別れすることになったらどうするか、という話になった。私は色んな人に対して後悔の気持ちを抱くだろうなと思ったけれど、彼女は、全然後悔しないと言ってのけた。

お風呂に入ったあと、ベッドに横たわったがなかなか寝付けなかった。土曜日にあった非日常の出来事を悶々と思い返していた。たとえばお酒を飲み、隣にいた好きな後輩の髪を脳死で撫でてしまったこと。彼女は、あとで懐いたように抱きつきにきてくれたのだが、酔いが冷めていた私はびっくりして、拒絶のような反応をしてしまった。

あるいは、酔い潰れ、朦朧としながら部屋の机に突っ伏して眠ったこと。起きてすぐに、家の近くに来てると連絡をくれた元セフレと鴨川で会った。好きだよといった彼の言葉を間に受けず、私はひとりの人間として彼と向き合うのを避けてしまった。笑いながら浅い会話をし続けた。今になって、もっと話すべきことがあったのにと思った。

どうしようもない。しかしそれらは、日常に戻れば輝きを失う些細な出来事である。きっと深く考えるべきではない。そう思い込んで自分を納得させ、ようやく眠りについた。

着信音で目覚めると9時半だった。電話は恋人からで、彼は今までにないほど落ち込んでいて、声は弱々しかった。やらかして人に迷惑をかけてしまったのだと自分を責めていた。彼はあまり心配をかけまいと無理に笑おうとしているようで、それが痛々しかった。鼻をすする音を聞いた、気がした。私は話をきくことしかできなかった。
短い電話を終えたあと、あなたの幸運を願っておく、と七夕を理由にしたラインを送った。自分のことも願いなね、と彼に返された。

バイトに行った。新しいアルバイトの大学4回生の方と初対面した。ふにゃふにゃしている人だと思った。彼は嬉々としてパチンコを語っていた。雑談しつつ、就活についても色々と教えてもらった。

バイトが終わってからは別の同僚とふたりで、彼の行きつけのバーへ向かった。そこで彼の、かなりしっかりした将来の目標や、バーテンダーさんの人生観に耳を傾けた。そんな彼らを目の前にしながら、なにも話せることがない自分を、とてもつまらない人間だと思った。自分のことを口に出して話すのを、私はずっと苦手にしている。同僚は、気持ち良い話の聴き方だと褒めてくれたけれど、人の話を受け取るしかできない自分を嫌悪していた。

むしむしと暑い中、夜道を自転車で走った。家に着いてから、未読にしていた恋人のラインを開いた。「自分のことも願いなね」への返信は、「うん」以外には思いつかなかった。

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