【Röntgen】レントゲンの綴りにおけるオー・ウムラウトの各言語における発音変化
11月8日はレントゲンの日で、英語で“World Radiography Day”という国際的な記念日で、1895年=明治28年のこの日にヴィルヘルム・コンラード・レントゲン博士が“X線”を発見したことにちなむ記念日です。
レントゲン=X線《🩻》の絵文字は令和3年9月にユニコード14.0に〈X-RAY〉として採用され、U+1FA7Bに配置されています。
またユニコードでは〈SQUARE RENTOGEN〉というロゴグラム《㍖》がU+3356に配置されています。
今回はいろいろな言語でレントゲン関連の表記について取り上げます。
いろいろな言語でレントゲン
レントゲンの意味の単語は、発音が数種類存在したり、X線の意やその発見者の人名にとって発音を使い分ける言語も見られます。
【Roentgen】ほとんどのラテン文字使用言語 - スイス・ドイツ語では全文大文字の場合〈ROENTGEN〉とウムラウト付きO《Ö・ö》が連字OEに置き換えられる。
OE《Ö》が後舌母音=オ段・ウ段系の発音になる借用語
インド諸言語ではイギリス英語経由の発音、キリル文字使用言語ではドイツ系人名由来の場合、軟母音字で表記される言語に見られます。
【Roentgen , Röntgen / 𐑮𐑪𐑯𐑑𐑜𐑩𐑯 , ·𐑮𐑪𐑯𐑑𐑜𐑩𐑯】イギリス英[ˈɹɒnt.ɡən ロントガン] - シェイヴィアン文字では人名の場合、ラテン文字中点《·》が先頭に付加される。
【Rontgen】イタリア、エスペラント、クルド、インドネシア - インドネシア語では単位《㍖》の意。
【Roontigan】オロモ
【Ryontgen】ウズベク - 人名の場合に用いる。
【Rɔwɛntɩgɛn】カビイェ
【Рёнтген , Рентген】ロシア[リョーンゲン] - ロシア語の場合、X線の意の〈Рентген〉[リンギェーン]とは別に人名に用いられるキリル文字IO《Ё・ё》のウムラウトは辞書・教科書以外では省略されることが多い。
【Ронтген】リングア・フランカ・ノバ
【Рьонтген】ブルガリア - 人名に用いられる。
【Рьонтґен】ウクライナ - 人名に用いられる。
【رونتجن】エジプト・アラビア
【رونتجين】シンド
【رونتغن】アラビア
【رونتگن】ペルシア、マーザンダラーン
【روٹجین】ウルドゥー
【رونٹیگن】西パンジャブ、カシミール
【رونټګېن】パシュトー
【روٴنتݢن】ジャウィ
【ڕۆنتجن】ソラニー
【ڕۆنتگن】ソラニー
【ڕۆنتگێن】ソラニー - 人名を示す。
【ރޮންޓްޖެން】ディベヒ
【राँटगॅन】コンカニ
【रॉंटजेन】マラーティー
【रॉटजन】ヒンディー
【रॉण्टजन】ヒンディー - X線の意。
【रॉन्टगन】ヒンディー - X線の意。
【रॉन्टजैन】アンギカ
【रॉँटजेन】マラーティー
【रोण्ट्जेन् / 𑌰𑍋𑌣𑍍𑌟𑍍𑌜𑍇𑌨𑍍】サンスクリット
【रोन्टजेन】ネパール、アワディー
【রন্টগেন】ベンガル
【ৰণ্টজেনে】アッサム
【ਰੋਂਟਗਨ】パンジャブ
【ਰੋੰਟਜੇਨ】パンジャブ
【𑐬𑑀𑐣𑑂𑐚𑐖𑐾𑐣 , 𑐬𑑀𑐣𑑂𑐚𑑂𑐖𑐾𑐣 / रोन्ट्जेन】ネワール
【રોન્ટજેન】グジャラート
【𑒩𑒽𑒝𑓂𑒙𑒖𑒢 / रॉण्टजन】マイティリー - X線の意。
【ରଣ୍ଟଜେନ୍ , ରଣ୍ଟଜେନ】オリヤー
【ரொண்ட்ஜென்】タミル
【ரோஞ்சன்】タミル
【ரோண்ட்கன்】タミル - 人名を示す場合。
【ரோண்டகென்】タミル
【రోంట్జెన్】テルグ
【ರೆಂಟ್ಗನ್】カンナダ
【റോൺട്ജൻ】マラヤラム
【റോണ്ട്ജൻ】マラヤラム
【റോന്റ്ജെൻ】マラヤラム
【රොන්ට්ජන්】シンハラ
【රෝන්ට්ජන්】シンハラ - 人名に用いる。
【ရော့ဂျန်】ビルマ
【ရွန့်ဂန်】ビルマ - レントゲニウムの意の〈ရွန့်ဂန္နီယမ်〉の語根。
【ꦫꦺꦴꦤ꧀ꦠ꧀ꦒꦼꦤ꧀ / Rontgen】ジャワ
【ᮛᮧᮔ᮪ᮒ᮪ᮌᮨᮔ᮪ / Rontgen】スンダ
【倫琴 / Lûn-khîm】台湾
【ሮንትገን】ティグリニャ
OE《Ö》が前舌母音=イ段・エ段・ア段系の発音になる借用語
本来のドイツ語に近い発音です。
日本語もこの系統に含まれます。
【Röntgen】ドイツ[ˈʀœnt.ɡn̩ レントゲンまたはルントゲン]、スウェーデン、スロバキア、フィンランド、エストニア、トルコ - 語源となったX線の発見者の名字。ウムラウト《¨》が使用されないラテン文字使用言語にも尊重表記として用いられる。
【Roentgen / 𐐡𐐯𐑌𐐻𐑀𐑌】アメリカ英[ˈɹɛnt.ɡən レントガン]
【Rointgin / Ꞃoınꞇᵹın】アイルランド
【Røntgen】デンマーク、ノルウェー
【Rœntgen】フランス[ʁœ̃nt.ɡɛn ラントゲーヌ] - リガチャOE《Œ・œ》は発音及び点字《⠪》はドイツ語のウムラウト付きO《Ö・ö》とほぼ共通だが、近年はX線の意はフランス語版ウィクショナリーによると連字OE《OE・oe》に置き換えられ、人名はドイツ語と同じ《Ö・ö》に置き換えられる傾向となっている。
【Rꞝntgen】ヴォラピューク - 初期正書法のヴォラピュークOE《Ꞝ・ꞝ》の小文字は国際音声記号クローズドオープンE《ʚ》で代用される。旧正書法でレントゲニウムは〈Rꞝntgenin〉。
【Rendgen】ポーランド、セルビア・クロアチア
【Rengėns】サモギティア
【Rentgen】チェコ、スロベニア、アルバニア、アゼルバイジャン、ウズベク、トルクメン、クリミア・タタール
【Rentgenas】リトアニア
【Rentgeno】エスペラント - 名詞を示すオー《o》の付加で単位《㍖》を示す。
【Rentgens】ラトビア
【Ρέντγκεν】ギリシャ
【Ῥέντγεν】古典ギリシャ
【Рендген】セルビア、ボスニア、マケドニア
【Рентген】ほとんどのキリル文字使用言語
【Рентґен】ウクライナ - 現行正書法におけるX線の意の〈Рентген〉[レントヘーン]と区別される表記。レントゲニウムは〈Рентґеній〉。
【Рентҝен】アゼルバイジャン
【Рѐнтген】ブルガリア - 単位《㍖》を示すが、実際はグレーブ付きIE《Ѐ・ѐ》のグレーブアクセントは省略される。
【Рӧнтген】セルビア、ボスニア、ウズベク - ラテン文字正書法が存在する言語における翻字 (セルビア語版ウィキソースに単語と人名の表記の区別記載)。実際はキリル文字《Ӧ・ӧ》はラテン文字《Ö・ö》に置き換えた〈Рöнтген〉が使用される傾向が多い。X線発見者の人名はセルビア語・ボスニア語で〈Вилхелм Конрад Рендген➡Ԝилхелм Цонрад Рӧнтген〉, ウズベク語で〈Вилгелм Конрад Рентген➡Wилҳелм Сонрад Рӧнтген〉とそれぞれのラテン字母に対応した字母に置き換えられ、原綴と同じ発音―ドイツ語ラテン文字ツェー《C・c》に対応するセルビア語TSE《Ц・ц》とウズベク語ES《С・с》はカ行音[k]―で読まれる。
【Рөнтген】タタール
【Рэнтген】ベラルーシ
【Рэнтгэн】ベラルーシ - タラシケヴィツァ式表記。
【Ռենթկէն】西アルメニア
【Ռենտգեն】アルメニア
【ᲠᲔᲜᲢᲒᲔᲜᲘ / რენტგენი / Ⴐⴄⴌⴒⴍⴂⴄⴌⴈ】ジョージア、メグレル
【רנטגן】ヘブライ
【רענטגען】イディッシュ
【رەنتگەن】カザフ
【رونتگن】南アゼルバイジャン
【رۆنتگېن】ウイグル - 人名を示す。
【رىنتىگىن】ウイグル - X線の意。
【رېنتگېن】ウイグル - X線の意。
【ᠷᠸᠨ᠋ᠲ᠋ᢉᠧᠨ】モンゴル[イレントゲーン] - キリル文字表記〈Рентген〉に対応する表記。
【राँटजेन】マラーティー
【रेन्टगेन】ネパール
【র্যোন্টগেন】ベンガル - ドイツ語音に近い表記。
【ராண்ட்கன்】タミル - 人名を示す。
【ராண்ட்ஜன்】タミル - X線の意。
【రాంట్జెన్】テルグ
【ರಾಂಟ್ಜೆನ್】カンナダ
【ರಾಂಟ್ಜೆನ್】カンナダ
【ᜇᜒᜅ᜔ᜄᜒᜈ / Renggen】タガログ/フィリピノ
【ᜭᜲᜥ᜴ᜤᜲᜨ᜴】ハヌノオ
【ረንትገን】アムハラ
OE《Ö》が中舌母音=曖昧母音及びそれに近い後舌母音の発音になる借用語
タイ諸言語では曖昧母音に近い発音で借用されています。
【Roentgen / 𐑮𐑻𐑯𐑰𐑜𐑩𐑯 , ·𐑮𐑻𐑯𐑰𐑜𐑩𐑯】イギリス英[ˈɹɜːnt.ɡən ラーントガン]
【Roentgen / 𐐡𐐲𐑉𐑌𐐻𐑀𐑌】アメリカ英[ˈɹɝːnt.ɡən ラーントガン]
【Ronsen】インドネシア[ロンスン] - X線の意。
【Рӧнтген】コミ
【رېْوْنتګېن】パシュトー - X線の意。典拠であるパシュトー語版ウィキペディアではスクーン記号がドイツ語原綴におけるウムラウトの箇所を示す。
【रंजन】ヒンディー - 単位《㍖》を示す。
【रंटजेन】ヒンディー
【𑂩𑂁𑂗𑂏𑂵𑂢 / रंटगेन】ビハール/ボージュプリー
【Rơn-gen】ベトナム
【เรินต์เกน】タイ
【เรินท์เกิน】タイ
【ເຣິນເກນ】ラオ
【倫琴 / Leon⁴kam⁴】広東
【伦琴 / Lénjhin】上海
OE《Ö》が二重母音あるいは半母音と母音の音節になるもの
インド諸言語ではラテン文字の連字OEが二重母音と解釈した表記が目立ち、レントゲニウムを示す単語の語根となっているケースが多いです。
【Roentgen】ラテン、ルーマニア[ロエントジェン]
【Roentxen】アストゥリア
【Ruintghen】シチリア
【Роентген】セルビア、ボスニア、マケドニア、モンゴル、カザフ、ウズベク - X線の意である単語と区別するために、人名を示す。
【Роентӂен】モルドバ
【روینٹجن】ウルドゥー
【ރޮއެންޓްޖެން】ディベヒ
【रोएंटजेन】ヒンディー - 人名を示す。
【ৰোয়েণ্টজেন】アッサム
【ꯔꯣꯌꯦꯟꯇꯖꯦꯟ / বোয়েন্তজেন】マニプーリ
【𑐬𑑀𑐈𑐣𑑂𑐟𑐖𑐾𑐣 / रोएन्तजेन】ネワール - 人名を示す。
【𑒩𑒼𑒋𑒢𑓂𑒙𑒖𑒹𑒢 / रोएन्टजेन】マイティリー
【𑠤𑠵𑠆𑠷𑠔𑠳𑠑𑠳𑠝 / रोएंटेजेन】ドーグリー
【ରୋଏଣ୍ଟ୍ଜେନ୍ , ରୋଏଣ୍ଟ୍ଜେନ】オリヤー - 人名を示す。
【రోయెంట్జీన్】テルグ - 人名を示す。
【ᬭᭀᬳᬾᬦ᭄ᬢ᭄ᬕᬾᬦ᭄ / Roéntgén】バリ
【ᜇᜓᜁᜈ᜔ᜆ᜔ᜄᜒᜈ᜔ / Roentgen】タガログ/フィリピノ
【ᜭᜳᜡᜨ᜴ᜦ᜴ᜤᜲᜨ᜴】ハヌノオ
【倫琴 / 伦琴 / Lúnqín】中国 - 日本語翻字では《倫・伦》は〈ルン〉となるが実は二重母音。
【倫琴 / ㄌㄨㄣˊㄑㄧㄣˊ】台湾華
【뢴트겐】韓国 - ハングルOE《외・ㅚ》における韓国語音OE[we ウェ]は、日本語翻字では本来の朝鮮語音OE[ø エ]に近いエ段[e]で表記される傾向がある。レントゲニウムの場合は〈뢴트게늄〉という風にパッチムのニウン《ㄴ》が元素の接尾語YUM《윰》の初声に移動する。
【뤤트겐】韓国 - 本来の韓国語音による表記。人名にまれに使用される。
【ሮየንቴን】アムハラ - 人名に用いる。レントゲニウムは〈ሮየንቴኒየም〉と綴りが変化。
レントゲニウム表記の場合の特殊表記
レントゲニウムの元素記号表記は〈Rg〉です。
中国語では元素漢字の場合1文字表記で示されます。
【Roentgén-】ポルトガル - レントゲニウムなどの語根の場合、ダイアクリティカルマークが表示される。
【Roentgên-】ブラジル・ポルトガル - ポルトガル本国の広いエ《É・é》[ɛ]から狭いエ《Ê・ê》[e]に発音が変化。
【錀 / 𬬭 / Lún】中国 - 本来は“うさぎあみ”の意を示す形声文字。発音を示す《侖・仑》は〈倫琴・伦琴〉の略。
【錀 / ㄌㄨㄣˊ】台湾華
【錀 / Leon⁴】広東
【錀 / Lûn】台湾
【𬬭 / Lén】上海