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ギリシャ文字による日本語表記について

2月9日は国際的な記念日であるギリシャ語の日です。
今回はギリシャ文字による日本語表記を取り上げます。

母音における原則

➊ギリシャ文字ではウ段[u]はオミクロンとユプシロンの連字ΟΥ・Ου・ου》で表します。この原則はフランス語ラテン文字《OU・Ou・ou》, 古代教会スラブ語キリル文字《ОУ・Оу・оу➡Ѹ・ѹ》, コプト文字《ⲞⲨ・Ⲟⲩ・ⲟⲩ》, アルメニア文字《ՈՒ・Ու・ու》にも受け継がれています。
古典ギリシャ語における二重母音表記ではアウ系も見られ、これらの母音の後のワ行音も示します。
ΑΥ・Αὐ・αὐ・αυ/ΕΥ・Εὐ・εὐ・ευ】アウ/エウ

➋ギリシャ文字では強アクセントを示すトノスアクセント΄》が必須ですが、大文字のみの表記の場合はアクセント記号を使用しないルールとなっています。
ウ段はオミクロンの後に続くユプシロンύ》にトノスを付加します。
Ά・ά/Ί・ί/Ού・ού/Έ・έ/Ό・ό】ア/イ/ウ/エ/オ

➌古典ギリシャ語では長音表記が見られます。原則的にマクロン¯》を用い、エーとオーは専用字母のイータΗ・η》とオメガΩ・ω》があります。強アクセント記号が付くとマクロンが省略されます。
Ᾱ・ᾱ/Ῑ・ῑ/ΟῩ・Οῡ・οῡ/Η・η/Ω・ω】アー/イー/ウー/エー/オー

➍現代ギリシャ語における長音表記は連字を用います。表記例はギリシャ語版ウィキペディアの【Ιαπωνία】の項目に見られます。但し、京都の〈Κυότο〉など一部の地名は長音表記が省略されます。
ΑΑ・Αα・αα・άα/ΙΙ・Ιι・ιι・ίι/ΟΥΟΥ・Ουου・ουου・ούου/ΕΕ・Εε・εε・έε/ΕΪ・Εϊ・εϊ・έϊ/ΟΟ・Οο・οο・όο/ΟΟΥ・Οου・οου・όου】アア・アー/イイ・イー/ウウ・ウー/エエ・エー/エイ/オオ・オー/オウ

➎古典ギリシャ語では語頭のア行にプシリ᾿》を付加します。二重母音の場合は小文字2字目にプシリを付加します。大文字のみの場合は付加されません。
Ἀ・ἀ/Ἰ・ἰ/ΟΥ・Οὐ・οὐ/Ἐ・ἐ/Ὀ・ὀ】ア/イ/ウ/エ/オ

➏古典ギリシャ語では語頭のハ行にダシア》を付加しますが、語中は横浜の〈Ἰοκοαμά〉のように省略されます。二重母音の場合は小文字2字目にダシアを付加します。ハ行音を明確に示すヘータͰ・ͱ》が稀に用いられ、横浜は〈Ἰοκοͱαμά / ΙΟΚΟͰΑΜΑ〉と示されますが、小文字はラテン文字エイチh》に似た異体字もあります。ラ行語頭も《Ῥ・ῥ》のように用い、大文字のみの表記や語中では省略されます。
ͰΑ・Ἁ・ἁ/ͰΑΙ・Αἱ・αἱ/ͰΙ・Ἱ・ἱ/ͰΟΥ・Οὑ・οὑ/ͰΕ・Ἑ・ἑ/ͰΗ・Ἡ・ἡ/ͰΟ・Ὁ・ὁ/ͰΩ・Ὡ・ὡ】ハ/ハイ/ヒ/フ/ヘ/ヘー/ホ/ホー

➐古典ギリシャ語のアクセント記号はトノスではなくオクシア》を使用しますが、ネット上ではフォントによっては《ˑ》のような別形状になるトノスで代用されるケースが多いです。
Ἄ・ἄ・ά/Ἴ・ἴ・ί/Οὔ・οὔ・ού/Ἔ・ἔ・έ/Ἤ・ἤ・ή/Ὄ・ὄ・ό/Ὤ・ὤ・ώ】ア/イ/ウ/エ/エー/オ/オー
Ἅ・ἅ/Ἵ・ἳ/ὍΥ・Ὅυ・οὕ/Ἕ・ἕ/Ἥ・ἥ/Ὅ・ὅ/Ὥ・ὥ】ハ/ヒ/フ/ヘ/ヘー/ホ/ホー

➑現代ギリシャ語で二重母音のイを示すために、ダイエレシス¨》を使用しますが、イオタには使われません。コプト文字やゴート文字ではダイエレシス付き字母がユニコードに採用されなかったことから合成字母を用います。
ΑΪ・Αϊ・αϊ・αΐ/ΙΙ・Ιι・ιι・ιί/ΟΥΪ・Ουϊ・ουϊ・ουΐ/ΕΪ・Εϊ・εϊ・εΐ/ΟΪ・Οϊ・οϊ・οΐ/ΟΟΪ・Οοϊ・οοϊ・οοΐ】アイ/イイ/ウイ/エイ/オイ/オオイ
古典ギリシャ語では、アヤの〈ΑΙΑ・αιά〉とアイアの〈ΑΪΑ・αΐα〉のように拗音と二重母音とを区別する場合やコイネーなど現代ギリシャ語と同じ発音に変化した古典ギリシャ綴りで示す場合には用いられます。
ΑΪ・Αϊ・αϊ・Ἀϊ・ἀϊ/ΙΙ・Ιι・ιι・Ἰι・ἰι/ΟΥΪ・Ουϊ・ουϊ・Ὀυϊ・οὐϊ/ΕΪ・Εϊ・εϊ・Ἐϊ・ἐϊ/ΟΪ・Οϊ・οϊ・Ὀϊ・ὀϊ/Ἁϊ・ἁϊ/Ἱι・ἱι/Ὁυϊ・οὑϊ/Ἑϊ・ἑϊ/Ὁϊ・ὁϊ】アイ/イイ/ウイ/エイ/オイ/ハイ/ヒイ/フイ/ヘイ/ホイ

➒古典ギリシャ語ではハ行とワ行の間の母音を示すための特殊表記が見られます。
ͰΑΥΑ・Αὑα・αὑα】ハワ

ギリシャ文字による日本語翻字

現代ギリシャ語/古典ギリシャ語/アルバンティカ語/バクトリア語―の順です。
現代語ではギリシャ語版ウィキペディアの方式と日本でよく知られている表記の2種類があります。
古典ギリシャ語では異体字も併記しています。

Α・α / Α・α / Α・α / Α・α】ア
Ι・ι / Ι・ι / Ι・ι / Ι・ι】イ
ΟΥ{Ʊ}・Ου・ου / ΟΥ{Οϒ}・Ου・ου , Ȣ・ȣ{ᴕ} / Ȣ・ȣ / ΟΥ・Ου・ου】ウ - 古典語ではオミクロンとユプシロンの合字が19世紀頃まで使用されていたがユニコード未登録で、合字に由来するラテン文字ウーȢ・ȣ》がユニコードに採用されている。現代語では国際音声記号に見られるラテン文字ウプシロンƱ・ʊ》に似た字形であるウプシロン/ガメオƱ》あるいはオミクロンとユプシロンの合字が俗用で使用されているが、ウプシロン/ガメオの小文字は不明。
Ε・ε / Ε・ε{ϵ} / Ε・ε / Ε・ε】エ - 古典語とバクトリア語ではイータΗ・η》がエーを示す。
Ο・ο / Ο・ο / Ο・ο / Ο・ο】オ - 古典語とバクトリア語ではオメガΩ・ω》がオーを示す。
母音のみ / ᾿ / 母音のみ / 母音のみ】ア行 - 古典語では必ず語頭にプシリ᾿》が付く。
Κ・κ / Κ・κ{ϰ} / Κ・ϰ / Κ・κ】カ行
ΓΚ・Γκ・γκ / Γ・γ / Γ・γ / Γ・γ】ガ行
Σ・σ / Σ{Ϲ}・σ{ϲ} / Σ・σ / Σ・σ】サ行 - 語末のファイナルシグマς》は日本語翻字では使用されない。
Σ・σ / Σ{Ϲ}・σ{ϲ} / Σ̈・σ̈ / Ϸ・ϸ】シャ行 - サ行とシャ行の綴りは区別されないが、発音上では区別される場合がある。日本における翻字方式では本来区別されないシャ行音のシグマ《Σ・σ》に対して〈ΣΙ・Σι・σι〉が用いられるが、ギリシャ語版ウィキペディア式ではコロニス》の代わりのアポストロフィー'》を用いた《Σ'・σ'》が用いられる。🔶ツァコニア語ではキャロン付きシグマΣ̌・σ̌》がシャ行音を示すが、合成に対応していないと表示が困難である。🔶バクトリア語ではショーϷ・ϸ》がシャ行音表記のために追加され、コプト語のシェイϢ・ϣ》がユニコード4.0までは拡張ギリシャ文字として扱われ、ギリシャ文字に合わせた字形となっていた。🔶アルバンティカ語ギリシャ文字ではダイエレシス付きシグマΣ̈・σ̈》で、合成に対応していないと表示が困難である。
Ζ・ζ / Ζ・ζ / Ζ・ζ / Ζ・ζ】ザ行
ΤΖ・τζ / ΤΖ・τζ / DΣ̈・Dσ̈・dσ̈ / ΔΖ・Δζ・δζ】ジャ行 - ツァコニア語ではタウとキャロン付きゼータの連字ΤΖ̌・Τζ̌・τζ̌》がジャ行音を示すが、合成に対応していないと表示が困難である。
Τ・τ / Τ・τ / Τ・τ / Τ・τ】タ行
ΤΣ・Τσ・τσ / ΤΣ・Τσ・τσ / ΤΣ̈・Τσ̈・τσ̈ , ΤΣ・Τσ・τσ / ΤϷ・Τϸ・τϸ , Τσ・Τσ・τσ】チャ行・ツァ行 - ツァコニア語では〈Τσ̌ι〉がで〈Τσου〉がとなり、アルバレシュ語では〈Τσ̈ι〉がで〈Τσȣ〉がとなる。
ΝΤ・Ντ・ντ / Δ・δ / D・d / ΔΔ・Δδ・δδ】ダ行
Ν・ν / Ν・ν / Ν・ν / Ν・ν】ナ行
ΝΥ-・νυ- / ΝΙ-・νι- / Ν̇・ν̇ / ΝΙ-・νι-】ニャ行 - アルバンティカ語ギリシャ文字では上ドット付きニューで、合成に対応していないと表示が困難である。
Χ・χ / Ͱ・῾ / Χ・χ / Υ・υ】ハ行 - 古典語では語中は表記されないが、ヘータͰ・ͱ》で語中のハ行音を示す場合がある。バクトリア語ではユプシロンΥ・υ》がハ行音[h]を示す字母に転用。
ΧΥ-・χυ- / ͰΙ-・Ἱ-・ἱ- / Χ̇・χ̇ / ΥΙ-・Υι-・υι-】ヒャ行 - アルバンティカ語ギリシャ文字では上ドット付きカイで、合成に対応していないと表示が困難である。
Φ・φ / Φ・φ{ϕ} / Φ・φ / Φ・φ】ファ行 - 日本語の文字としてのギリシャ文字ではファイシンボルϕ》が用いられるが、本来のファイ《φ》のコードポイントの字形がファイシンボルとなる。
ΜΒ・Μπ・μπ / Β・β{ϐ} / Б・b / ΒΒ・Ββ・ββ】バ行 - 古典語ではフランス式で語中のベータの字形がベータシンボルϐ》に変化する。古典語ではヴァ行音であってもベータを用いる場合がある。アルバンティカ語ギリシャ文字はラテン文字の《Ƃ》かキリル文字の《Б》のいずれかが用いられる。
Π・π / Π・π{ϖ} / Π・π / Π・π】パ行
Μ・μ / Μ・μ / Μ・μ / Μ・μ】マ行
ΓΙ-・Γι-・γι- / Ι-・Ἰ-・ἰ- / Ϳ・ϳ / Ι-・ι-】ヤ行 - 古典語ではヤ行音を示す字母であるドイツ語ラテン文字ヨットJ・j》と同型のヨットͿ・ϳ》が稀に使用される。
-Υ-・-υ- / -Ι-・-ι- / -Ϳ-・-ϳ- / -Ι-・-ι-】拗音 - 現代語では英語のワイY・y》と同型のユプシロンΥ・υ》を拗音表記に用いるが、日本では古典語方式のイオタ《Ι・ι》による表記が好まれる。
Ρ・ρ / Ρ・Ῥ・ῥ・ρ{ϱ} / Ρ・ρ / Ρ・ρ】ラ行 - 古典語では語頭にダシア付きローῬ・ῥ》が用いられる場合とダシアが省略される場合がある。
ΟΥ-・ου- / ΟΥ-{Οϒ-}・Οὐ-・οὐ-・ου- ; -Υ-・-ὐ-・-ὐ-・-υ- / Β・ϐ / Ο-・ο-】ワ行 - 古典語では母音《Α・α》[ア]又は《Ε・ε》[エ]の後ではユプシロンのみで示す。 現代語では日本語の助詞「~を」を示すためにオメガΩ・ω》を用いる。
Β・β / ΟΥ-・Οὐ-・οὐ-・ου- , -Υ-・-ὐ-・-ὐ-・-υ- / Β・ϐ / Β・β】ヴァ行 - 現代語では日本語のワ行音を示すためにベータΒ・β》が用いられる場合がある。古代ギリシャの方言ではかつてワ行音及びヴァ行音表記のためにディガンマϜ・ϝ》が用いられ、現代語による古典式表記では、ウィキの意の〈Οὐίκι➡Ϝίκι〉のように《ΟΥ・ου》の略字として用いられる。
-ΟΥ-・-ου- / -ΟΥ-・-ου- / -Β-・-ϐ- / -Ο-・-ο-】合拗音
ΓΓ・Γγ・γγ , ΝΓΚ・Νγκ・νγκ / ΓΓ・Γγ・γγ / ΝΓ・Νγ・νγ / ΓΓ・Γγ・γγ】鼻濁音ガ行

🔻ギリシャ語の促音・撥音は以下の通りになります。
現代語では連字で発音が大きく変わるため、子音と子音の間をコロニス》で区切る必要があります。

ΚΚ・κκ / ΚΚ・κκ】ック
ΓΚΓΚ・γκγκ / ΓΓ・γγ】ッグ
ΣΣ・σσ / ΣΣ・σσ】ッス
ΤΤΖ・ττζ / ΤΤΖ・ττζ】ッジ
ΤΤ・ττ / ΤΤ・ττ】ット
ΤΤΣ・ττσ / ΤΤΣ・ττσ】ッチ・ッツ
ΝΤΝΤ・ντντ / ΔΔ・δδ】ッド
ΧΧ・χχ / ͰͰ・ͱͱ】ッハ - 古典語では表記されない。
ΦΦ・φφ / ΦΦ・φφ】ッフ
ΜΠΜΠ・μπμπ / ΒΒ・ββ】ッブ
ΠΠ・ππ / ΠΠ・ππ】ップ
ΡΡ・ρρ / ΡΡ・ρρ】ッル
Ν᾽Α・ν᾽α / Ν᾽Α・ν᾽α】ンア
ΝΚ・νκ / ΓΚ・γκ】ンク
ΝΓΚ・νγκ / ΓΓ・γγ】ング
Ν᾽Τ・ν᾽τ / ΝΤ・ντ】ント
Ν᾽ΝΤ・ν᾽ντ / ΝΔ・νδ】ンド - 現代語では語中の綴りは区別されない場合がある。
ΝΝ・νν / ΝΝ・νν】ンヌ
ΝΝΥ-・ννυ- / ΝΝΙ-・ννι-】ンニ
ΝΧ・νχ / ΝͰ・νͱ】ンハ
ΝΦ・νφ / ΝΦ・νφ】ンフ
ΝΜΠ・νμπ / ΜΒ・μβ】ンブ - 現代語では語中の綴りは区別されない場合がある。
ΝΠ・νπ / ΜΠ・μπ】ンプ
ΝΜ・νμ / ΜΜ・μμ】ンム
ΝΓΙ-・νγι- / Ν᾽Ι-・ν᾽ι-】ンヤ
ΝΒ・νβ / Ν᾽ΟΥ-・ν᾽ου-】ンワ