セルビア人とのオンライン英会話の雑感

記事の内容


オンライン英会話でセルビア人講師の方とお話しした際に驚いたことと、そこから派生して知ったことから生じた雑感(とりとめもない感想)です。主張や報道を目的としたものではないので、ご留意下さい。


出来事

私はあるオンライン英会話サービスを利用しています。講師はフィリピン人が多いのですが、それ以外の国籍の方もいらっしゃいます。セルビア、カメルーン、ナイジェリアなどです。私は、数も多く同じアジア人として話しやすいことから、フィリピン人講師を選択することが多かったのですが、その日は中高年のセルビア人女性を講師として選択しました。セルビア人講師とお話しするのはその時が2回目でした。その英会話サービスでは、会話の形式をフリートーク、ディスカッション、TOEIC対策などから選択することができ、その日はディスカッションを選択していました。講師はとてもフランク且つ明るい女性で、会話は終始和やかなものでした。


さて、ディスカッションが進む中で、LGBTがお互いの国でどのように受け入れられているか、という話になりました。私は日本人よろしく差し障りの無い回答をしました。「過去と比較して、受け入れられ始めていると思うが、まだ職場などでカミングアウトするには障壁があると感じる」というようなことを話したと思います。対して講師の女性は、あくまで「全体的な風潮」と念押しされた上で、明確に「受け入れ難い」とお話しされたのです。その理由として、セルビアが非常に伝統ある国家であること、一昔前までは明確に「病気」とされていたことなどを挙げられていました(念のため繰り返しますが、この記事は主張や議論を目的としたものではありません。お互いに母国語ではない英語での会話であり、数分間という短時間の議論です。加えて、ある講師の方一個人とのお話であり、本当にセルビア全体の風潮を表現されているのかは判断できません)。


私は、対話において、LGBTに対し明確な否定の意思表示をされたのが始めてであったため、軽く面喰いました。特に、同一の場で普段お話しするフィリピン人講師の方々は、私の印象ですが比較的垣根が無く、ややもすれば講師ご自身がそのような方である(ように見える)こともあったため、尚更でした。ですが、LGBTという概念自体が、先立っている彼等への否定に対するアンチテーゼなので、キリスト教国(セルビア正教)の中高年の女性がLGBTに否定的であることは、むしろ自然なのかもしれません。2016年の記事ですが、同じ正教会であるロシア正教の総主教とローマ法王が同性婚を非難する記事がありました。

ですので「LGBTに対して否定的である人に驚く」という体験自体が、現代的であるといえるかもしれませんが、とにかくこの体験は私にとってちょっとしたインパクトがあったのです。


その後


私は恥ずかしながらこれまでセルビアという国について社会科以上の知識を持とうとしたことがありませんでしたが、その後興味を持ち軽く調べてみました。セルビアを紹介する動画をYoutubeでいくつか観賞すると、首都ベオグラードの街並みは明確に先進国のそれで、ブランド店が立ち並び、液晶の広告塔がそこかしこにあるのですが、伝統的な建築ととてもよく調和しており、美しい秩序を感じました。また街にはストリートミュージシャンによる心を揺さぶる音楽が溢れており、料理は他の地中海諸国と同様にとても美味しそうで、人々は幸せそうに見えます。加えて、講師の方がそうであったように、とても明るい方が多く、また新日国でもあるようで、日本の文化を発信するイベントではコスプレしながら日本語を喋る人もおり、是非一度訪れたいという気持ちになりました。


一方で、多くの課題を抱えた国であることも間違いないようです。旧ユーゴ時代からの経済的疲弊は続いており、所得ランキングを見てもセルビアはかなり低い位置にあります(現在世界59位で、月収は432ドル)。そもそも、格安英会話の講師として登録されている欧州大陸の国は、私が使っているサービスではセルビアのみだと思います(追記: 少ないですが、マケドニアやボスニア、ルーマニアの方もいました)。つまり英語講師として雇われうる人が一定以上いる教育水準でありながら、フィリピンや一部のアフリカ諸国と賃金競争が成立するほど、セルビアの賃金が低いということでしょう。一方で物価が同様の水準までに低いわけではなく、生活は決して豊かではないようです。2017年の記事ですが(ソースへのリンクもあり)、まさにセルビア人とオンライン英会話に関する問題を取り上げた記事があったためご紹介します。

給料は日本の7分の1である一方、物価は日本の2~3分の1とギャップが大きいです。また失業率は13%、若者は31.2%であり、記事の筆者の実感としてはもっと高く40%(若者50%)にはのぼるだろう、とのことです。同記事では、毎年32,000人の若者が外国に職を求めてセルビアを離れている、とも書かれています。※余談ですが、こちらのサイトを運営されているこーたろーさんは奥様がセルビア人なのですが、ご結婚の理由の一つが「自分が保守的だったが、彼女がとても自由な発想の持ち主だったから」とのことでして、本記事とは正反対の体験をされています。当然にして様々な価値観の方が混在していることが垣間見えます。


雑感


実は、今回私が即座に思い出した個人的経験があります。それはギリシャショック直後に、とあるドイツ人学生と話した経験です。当時彼は、ギリシャに明確に嫌悪感を示していました。その骨子は、勿論彼個人の主張ですが、ギリシャ人が全く働かず、国際経済から完全に取り残された結果として経済危機に陥り、ドイツをはじめとするEU諸国の支援を受ける羽目になりながら、未だに黴の生えた伝統にばかり固執し、分不相応な誇りにしがみついている、ということでした。

経済崩壊を前にしながら、果ては経験した後ですら、伝統をよすがに世界との潮流から乖離しているという批判が、今回の体験をキーとして思い出されてきたのです。勿論それは単にギリシャとセルビアの類似という意味でではありません。ディスカッションでは、LGBTの議題の後に経済の話に触れました。「日本人は勤勉でよく働くし、何より経済的にとても豊かでうらやましい」と言われました。私は再び日本人よろしく、「そうかもしれないけど、子供や孫の代には経済的なプレゼンスなんて無くなっていると思いますよ」と言うと、「セルビアは90年代に経済が崩壊してハイパーインフレが起きて、今も賃金は数十セントとかいう世界よ。比べたら全く問題にはならないでしょ。気にすることじゃないわ」と言われ、確かにと思った反面、本当にそうかな、とも思ったのでした。


最後に

私はTwitterベースで描いた漫画をnoteにも載せていますが、オンライン英会話を主題とした漫画があります。本記事の体験より前に描いたものですが、よろしければ読んでみてください。


漫画を描いています。本を買ったりサポートしていただけると励みになります。