2023/03/23 BGM: The Style Council - My Ever Changing Moods
今日は休み。雨が降っていたがいつものようにイオンに行き、池澤夏樹『マシアス・ギリの失脚』を読み進める。が、なかなか順調にはいかなかった。本ばかり読んでいていいのかなとは思うが、他にやりたいこともないのだから仕方がない。昨日と同じくサイレント・ポエツ『Potential Meeting』を聴きつつ小説の中の語り部の声に耳を傾ける作業を続ける。実に「大人のためのエンターテイメント」という印象を受ける。マシアス・ギリという大統領がどうやって「失脚」していくかを描いたサスペンスであり、幽霊が登場しバスが消滅する幻想小説(マジック・リアリズム)に貫かれた作品であり、同時に笑えるエンターテイメントでもあり盛りだくさん。登場する国ナビダードはそのまま世界政治の中で翻弄されてきた日本という国の写し絵のようでもあり、そう考えると池澤夏樹がこの小説に込めたメッセージやアイロニーが実に明瞭に感じられてきて興味深いし面白い。英語で言えばfunnyとinterestingを兼ね備えた作品と思った。
昼食を摂った後昼寝をして、池澤夏樹『海図と航海日誌』を読む。このエッセイ集を初めて読んだのは大学に在籍していた頃だったか。ここで開陳されている彼の読書量に舌を巻き、到底太刀打ちできないと妙な劣等感を抱いたことを思い出す(私はそういう「ヘタレなのに負けず嫌い」なところがある)。彼と同じ年齢に追いつき、その目から見てみても彼がフェアにさまざまな分野を横断し柔軟に読書をこなしていることを知るとこうした「大人の余裕」こそ自分に必要かもしれないとも思う。私はややもすれば自分に興味のある分野をディープに掘り下げることに終始してしまい、しかも(発達障害のせいか)飽きっぽいのでその掘り下げも長続きしないという結果になる。いわゆる「虻蜂取らず」というやつで、コツコツとある分野に取り組むということができない……とは言い過ぎにしても難しいのだった。
今日は毎週木曜恒例のZOOMでのミーティングがお休みということもあって、夜はさしあたって何もすることがない。映画でも観るかと思ったのだけれど結局その気にもなれず、『マシアス・ギリの失脚』を最後まで読み終えてしまう。実に旨味のある作品と唸らされた。このエンターテイメントを翻訳したら海外の読者にも良さが伝わるのだろうかと考えたりする。私が翻訳したらどうなるだろうか、と考えるも「あまり自分の語学力を過大評価するのはみっともないな」と思う。私の日記を私が英訳するのとはわけが違う。池澤の端正で丁寧な日本語をきちんと英訳して、そのニュアンスも含めて伝えるのは並大抵の語学力ではできないだろう。とはいえ、率直な実感として「もっと世界レベルで読まれてもいいのに」と思う作品に対して「もったいない」と思うこともまた確かなのだった。
某所で私自身の読書遍歴について尋ねられた。そんなに華麗な読書を通ってきたわけではなく、家に『世界文学全集』があったとはいえまったく読んだことがない。私は「必読書」「マスト」とされる本を生真面目に読破したわけではなくただ読みたい本をふしだらに読んできただけなのだった。そんな不真面目極まりない自分の読書でも誰かの参考になるのだとしたら……と思いまとめてみた。今もってなお「十代でドストエフスキーにやられました」という人と出くわすとその早熟ぶりに「私とはぜんぜん違うな」「負けたな」と思わせられるのだけど、まあしょうがない。私は私の道をゆくまでなのでこれからも「必読書」を読まずに(例えば『戦争と平和』は「老後の楽しみ」くらいに思っている)生きる……とはいえ移り気な性分なので、明日あたりもしかしたらジェイムズ・ジョイスやウィリアム・フォークナーなんか読んだりしているかもしれないのだけれど。
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