舞台の感想 - 夏の砂の上

山田杏奈ちゃんの姿をこの目で見て、声をこの耳で聴きたいんじゃあああーあああ!!

そんな理由で観劇に至った「夏の砂の上」。
(主役は田中圭)
凄まじく良かった。予想を遥かに超えて良かった。

舞台やミュージカルはそこそこ観てきたが、そのどれもがアンプとスピーカーを通して演者の台詞を聞くものだった。しかし、この「夏の砂の上」の演技はなんと肉声。自身の初体験であった。

世田谷パブリックシアターの三階、かなり高さのある席だったがすべての台詞が明瞭に聴こえ、角度や距離に関わらず表情が分かった。演者がそうなるように芝居し、演出効果照明その他の制作陣すべてがそう作り上げたのだ。

さて、物語は退屈で難解、さらにあまり楽しくない。しかし目が離せず心拍は落ち着かず、息を止めて泳ぎきるかのような思いで展開を見張る。言うまでもないことだが、誰も何も喋っていない「間」は決して空白ではなく、むしろエーテルで満たされた宇宙のように意味が込められている。

物語が終盤に入ると時間は二乗的に加速し、急流が滝となって落ちるように終演を迎える。

終演したと自身が認知した瞬間、胸の辺りから何かが押し寄せた。そして頭の中で、物語の結末を整理し切る、理解に及ぶ前に涙が溢れた。その後に、何かとは感動だったとようやく認識した。

帰宅中の電車の中で、物語を何度も反芻した。寝るまでの間、自分の意識は物語の中にとどまり続けた。

舞台にしろ映画にしろ、素晴らしい作品とはこういうものだ。

[『夏の砂の上』 | 主催 | 世田谷パブリックシアター]
https://setagaya-pt.jp/perfor.../2202211natsunosunanoue.html

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