『ヤクザときどきピアノ』がABBAを弾く
『ヤクザときどきピアノ』 著者:鈴木智彦
子供の頃からピアノに憧れていたおっさんは、ある日ミュージカル映画を鑑賞中、ABBAの「ダンシング・クイーン」が流れると、不意に感情が昂り「ピアノでこの曲を弾きたい」と思い立った。
このおっさん、52歳で普段は暴力団の取材をして記事を書いたり、本を出したりしているカタギだ。ピアノは未経験、もちろん譜面も読めない。
ピアノ教室を探しまくり、ついに運命の「レイコ先生」と巡り会う。
「『ダンシング・クイーン』を弾けますか?」
「練習すれば、弾けない曲などありません」
この瞬間から、おっさんの猛練習の日々が始まる。
”子供の頃からピアノに憧れていた”
わかる!
「なんでピアノ習わせてくれなかったの」
中学高校時代、音楽の授業についていけない私は、何度このセリフを親にぶつけたことか。
学校教育の音楽や体育は、授業中の先生の教えだけでは、決して理解したり、”できる”ようにはなりません。
アドバンテージが必要なんです。
著者もこれを心底クソだと表現しています。同感。
学校の先生の目的って、なんだろうか。
元からピアノ奏者ではなく、ピアノの先生になりたかったというレイコ先生だからこそ、著者のような生徒をあたりまえのように受け入れられたのでしょう。
「練習すれば弾ける」
この信念の前に、老若男女は問わず。
ピアノが弾けるって、本当に羨ましい。
YouTubeでストリートピアノの動画を次々に見ていると、1時間くらいあっという間に経ってしまうんですよね。
”たった1台のピアノがこんなに多くの人をハッピーにするんだ”
私も五十の手習いで鍵盤楽器を習いたいと思ったことがありました。
1曲でいいから弾けるようになりたいと。
リビングの片隅を、いつか迎える鍵盤様のためにと空けておいたスペースが、今ではミシンが3台並び、とてもそんな余裕はなくなってしまいました。
でも何か楽器は習いたいと思います。
もはや六十の手習い…。
このおっさん、いや著者は、猛練習を重ねた末に「ダンシング・クイーン」を弾けるようになったのです。
拍手喝采!!!!!
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しかし!
これでキレイに終わらせることができません。
私は引っかかっていたのです。
この本を読みながら、ちょいちょい。
著者は長年にわたって暴力団を取材し執筆しているライターであることは、冒頭からわかっています。
それなのに、この著者自身がヤクザであるような錯覚が、つねに頭の片隅にあるんです。「タイガー&ドラゴン」の”小虎”みたいな…。
おそらくそれは、本のタイトル『ヤクザときどきピアノ』と、表装の絵のせいでしょう。スキンヘッドにサングラスのおっさんです。
出版社側の狙いだと想像するも、逆効果だったのではと感じずにはいられません。だってこの錯覚、じゃまなんですもの。
本の中盤には、バッハやベートーベンなどの有名な音楽家と楽器ピアノの歴史講釈が長々と書かれ、飽きます。
なぜ? なにこの音楽史。
いかにも、”かさ増し”として入れられたような感じです。
そして、最後。
レイコ先生は過去に、80歳のおじいちゃんにピアノを教えたことがある、というエピソード部分で、あきらかに日本語として変な一文がありました。
ずぶの素人が言うのもなんですが、こういうのを見ると引いてしまう。
音楽史じゃなくて、終盤にある話をふくらませて欲しかったな。
この本を読んだきっかけは、Kindle版の日替わりセールで499円だったからでーす!
失礼しました。
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