『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』
『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』
著者:神田圭一、菊池良 イラスト:田中圭一
2人の著者が様々な文体で「カップ焼きそばの作り方」を書いています。
2人で100通り。
これって、ものすごい量です。
さらに、いろんな漫画家のタッチで文豪を描いたイラストも楽しい。
サラっと読んでクスっと笑っておしまい、でいいんです。
が、それにしても、です。
よく書いたなー、というのが素直な感想。
村上ワールドにはずいぶん前にどハマりしたけど、じゃぁそれ風に書いてみて、と言われて書けるか? ムリ。
うーーーーーん。
でも、何かやってみたい。
考えました。
もし「逃げるは恥だが役に立つ」がカップ焼きそばの作り方を書いたら。
週末1泊旅行の帰途についた平匡とみくり。
日曜日だというのに、わずかな乗客しかいないローカル線に揺られ、ボックス席で進行方向に向けて並んでいる。
旅の思い出を語り合うでもなく、爽やかな瞑想と自分勝手な妄想をめぐらせている。
平匡:(疲れたけど楽しかったな。料理もおいしかったけど、今日は久しぶりにアレが食べたいな。みくりさんに言ったら気を悪くするだろうか…。)
みくり:(いつも平匡さんにはちゃんとしたお料理を作っているけど、今日は疲れちゃったし、アレにしたいな…。平匡さんは食べたことあるかしら?)
平:(静電気で指にまとわりつくフィルムを剥がす時からワクワクする。ぐるぐると小さく丸めてゴミ箱に捨てたら、まずお湯を沸かす。湯気を逃がさないように、フタを開けるのは点線より手前で止めるのが、ぼくなりのこだわりだ。学生時代はアレばっかり食べてたな。)
み:(ソースやふりかけの袋を取り出したら、麺を持ち上げてカップの底にかやくを入れるの。だってそうしないと、湯切りした後にかやくがフタの裏側についちゃうじゃない。あぁ、こんなことするから私、小賢しいって言われるのかな…)
平:(沸騰したら、お湯をきっちり内側の線まで入れて、フタを元に戻して3分だけど、ぼくはいつもタイマーを2分40秒でセットする。どちらかといえば麺は硬めが好きだし、湯切りする時間も考慮しないと。いかん、いかん、想像してたら今日はもうアレ以外考えられない。)
み:(お湯は捨てないでカップスープにしちゃいます。鶏がらスープと塩コショウをちょっと入れるだけ。みくり流焼きそば定食。平匡さんにどうですかって聞いたらなんて言うだろう。仕方ないですね、何事も経験です、なんて言って食べてくれるかしら。)
平:(湯切りができたら、あとはソースとスパイスを混ぜるだけだ。ムラがないようにていねいに、ていねいに。あぁ、もういい匂い。みくりさんに何て言おう。あとひと駅…)
み:(あと、ひと駅…)
電車が停車前の減速に入ると、終点を告げるアナウンスが流れる。
平匡はももにのせた両の拳をじっと見つめ、みくりはその表情を見られないように顔をそむけている。
電車が止まり、ドアの開く機械音がひびいたその時、コンマ1秒の差もなく顔を見合わせたふたり。
ほぼ同時に声を上げた。
平&み:「きょう、ぺっ・・・」
車内にはもう誰もいない。
<完>