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7万円の箱の価値

お茶の道具屋さんでひとめぼれした「箱」が今日、届いた。

店頭では7万7千円の値札が付いていたものだが、紆余曲折を経て、4万4千円で手にいれた。
お金を払ったのはもちろん、この私だ。

どう見ても新品ではない。むしろ、少なくとも2~30年の時を経ている桑の箱だ。
しかし、他の箱にはない、凛とした雰囲気を感じる。

そして素人の私が見ても見事だなと感心するくらい、木の柾目の入り具合が美しいのだ。
御用邸等で使われているような木材で、きっと厳しい日本の自然環境の中、大切に育てられ、そしてその中から厳選された桑の木で作られたものに違いない。

また、その箱の中には、茶筅(抹茶を泡立てる道具)入れやなつめ(抹茶をいれる道具)もついている。箱と同じ素材の桑製だ。

茶道具屋の商売人によると、ひと昔前なら同じようなものはたくさん市場に出ていたけれど、茶の湯をたしなむ人口が減っている今、このような箱はもはやもう作られておらず、今では大変貴重で、これからもっと値段が上がってしまう可能性があるようだ。だから買うなら「今でしょ!」とのこと。
何かを買う時にいつも耳にする、彼の常套句だ。



茶の湯の世界には、実に様々な道具が存在する。

量産され、インターネットでも気軽に手に入るものもあるが、
中には「千利休が自分で作った」この世に2つとない道具なんかも存在する。
後者の場合、もはやお金で買えない「作品」だ。

千利休までさかのぼらないとしても、お茶会などで使われている茶道具は、だいたい古い。

これらの道具は、私にしてみれば単に年季の入った古いものにすぎないが、どうやらわかる人には大変貴重なものらしい。
「伊達家伝来」「徳川家伝来」云々。

そうでなくても、亡くなったおばあさまから受け継いだもの、師匠から譲り受けたものなど、いわくつきのものが多いし、その方が会話が盛り上がる。

つまりお茶の世界では、代々受け継がれているもの、今風に言えばストーリー性のあるものが、今でもエピソードとともに、大切に扱われている。

世の中、どんなに先端技術を駆使して安価で使い勝手の良い道具が開発されようと、今のところは、茶道具として評価されることはあまりないだろう。



そして私が手に入れたこの「箱」。

これまで誰がどんなふうに使っていたのかは、よくわからない。
でも、それはあまり重要なことではないんだ。

この箱は、先生と久しぶりのお茶会に出かけた帰り、お店を冷やかしに入店し、私がそれを見つけ、先生とあーでもないこーでもないと議論して、茶道の具プロの店員さんを巻き込んで交渉を重ねた結果、7万7千円を4万4千円にまで値下げしてもらい、手に入れたものだ。
ここがスタートだが、私にとっては十分だ。

そしてこれから、この箱に似合うお茶碗とか、お仕覆(お茶碗や茶入れ道具をしまう布)を少しずつ集めていくのだ。

そしてこの箱をバックパックの片隅にしまい込み、旅先で小さな、カジュアルなお茶会を楽しみたい。

この箱にまつわるストーリーは、私自身がこれから作っていくのだ。

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