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社宅にて

私が小学校2年生頃の話。

父の仕事の都合で私たちは中野区の社宅に住んでいました。
父、母、姉、私の4人家族。
引っ越しして1年ほど経った頃でしょうか。
ある日学校から帰っても、家には誰もいませんでした。
いつもは母がいるのですが、買い物にでも出かけていたのでしょう。

当時の私は友達との長電話にハマっており
いつでも会えるクラスメイトとわざわざ何時間も電話することが
とても楽しかったのを覚えています。

当時住んでいた社宅はコンクリート作りの、
いわゆる団地型で1棟3階建、1フロアに2世帯が入っていました。
どの部屋も角部屋になるように作られており
隣同士の音漏れ問題もなかったと思います。
私が住んでいたのは3階で、窓からは当初の電電公社と中野サンプラザが見え
新中野駅も中野駅も使える場所で学校も近く
環境的には何も問題ありませんでした。

さて
誰もいないので、夕飯まで校庭開放に行ってもいい。
でもこの日はなぜか同じ社宅内に住んでいる同級生に電話がしたくなりました。
私が小さい頃のことなのでもちろん携帯電話などありませんから
家に黒電話1台、家族がいれば争奪戦にもなりますし
父親が帰って来ようものなら同級生に電話などしていると
ガミガミ怒られます。

それでも子供なのでやめられません。
私がどうしても長電話をするので剛を煮やした母は
こっそり電話のケーブルを10m単位の長いものに変えてくれていました。
要するに、父親にガミガミ言われる前にこっそり自分達の部屋に電話を
持っていって話しなさい、というスタンスにしてくれていました。
父はいつもピリピリしていて何かにつけ怒鳴ったりする人だったので
母がそこをうまくやってくれていました。

ラッキーなことに今は誰もいませんが、
もし万が一父が早く帰ってきたら面倒なことになります。
私は自分の部屋に電話を持っていってかけようと思いました。

電話を手に取り、電話台の裏にぐちゃぐちゃになっているケーブルを
引っ張ろうとしたその時、

くん、くん、と引っかかる。
覗き込むと50cmほどしか見えません。

あれ おかしい。
何が引っ掛かってるんだろう

古い団地ゆえ、全部屋和室です。
おそらく襖の外で引っ掛かってるんだろうと
電話台の後ろにある襖を10cmほど開けました。
下の方で何かが引っかかってる、もう一度、くん、くんと引っ張る

あれおかしいなあ


ふと目線を上げると
目が合ったんです。

血走った目の女性が襖の隙間から覗いていました。
ぼさぼさの肩までの黒髪。
肌はボロボロで灰色と肌色を混ぜたような色。
その肌から、茶色く血管が浮いていました。

しばらく目が合ったまま絶句してしまい
思わず ばん!! と襖を閉じる。
え??何今の?
思わず廊下側に回って誰かがいるのか見てみると
もちろん誰もいません。

そんな女の人は知らない。

しばらく何が起きたのかわからずいると
母が買い物から帰ってきました。
私は今起きたことを話すのですが
もちろん信じてもらえません。
その女の人はその日以降見ることはありませんでした。

この社宅は今はもうありませんが
本当に不可思議なことがたくさん起きたので
そのお話はまた後々。

結論から申しますと
この部屋は事故物件でした。
社宅だったし、空きもないのですぐに住まわせたのでしょう。
私たち家族の前も同じ家族構成の方々で住まわれていたそうなのですが
女性(母親)がその部屋のベランダから落ちて亡くなったのだそうです。
3階から落下して亡くなるということは打ちどころが悪かったのかもしれません。
長い間闘病していたことも管理人さんからお聞きしました。

現在そこには新しい建物が建っていますが
社宅なのか普通のマンションなのかはわかりません。

あの部屋に出没した女性は成仏されているのか。
今もあの部屋付近を彷徨っているのでしょうか。




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