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行動経済学について

〇従来の経済学の基礎の上に、最近話題になっているのが、「行動経済学」である。では、行動経済学とはいったい何なのか。

伝統的な、今までの経済学では、その前提として「合理的な人間」「利己的な人間」を前提条件としていた。これは「どんな状況下にあっても、自己の満足を最大化させることを目的として行動をする」というものである。

 しかし、現実の人間はそうではない。例えば、近くにスーパーがあるのにもかかわらず、自販機で割高の缶ジュースを買う。洋服屋に入れば、「50%OFF!」と書かれている立札を見て、「これはお買い得品だ」と早合点してしまい、よく調べもせずに購入する。周りの人が身に着けているから自分も同じものを買う。といった、一見合理的とは遠い、不合理で感情的な判断をしてしまうのも人間である。



このような合理的ではなく、不合理であり、感情的、心理的な経済決定、意思決定の仕方を研究するのが、行動経済学である。


〇伝統的な経済学について


伝統的な経済学はアダム・スミスの『国富論』にはじまる。そもそも経済学とは、社会の中の富を、その中に所属する人々の幸福を最大化させるためにどう分配すればよいか、といった最適解を探す学問であった。

ケインズは、伝統的な経済学の大家である。「需要」と「供給」のバランスを考え、モノの値段は、そのバランスから自動的に一意に決定されると考えてきた。そして、例えば労働市場において、需要が供給を大きく上回る(=不況)時は、政府が公共事業を増やすことによって供給を大きくすればよいと説いていた。実は、今現在、日本のみならず世界各国で「市場経済に任せておいて、不況が発生したときには、政府が公共事業を行って労働の需要(雇用口)を増やせばいい」と、アタリマエのように言っているが、実はこれはケインズのおかげなのである。ケインズ以前は、このような考えはなかった。現在私たちが高校の教科書でも習うような「アタリマエ」だと考えられている考え方は、実はケインズの考え方なのである。そして、ここにケインズの偉大さがある。



話は戻り、しかし、現実のものの値段の決まり方は必ずしもそうとはいえない。例えばジュースはそのあたりの自販機では140円前後で買えるものの、富士山山頂近くではコーラが1本800円もする。映画館に行っても、ポップコーンやドリンクの値段は高い。これは、単に「需要ー供給」だけの話では済まされない。


プロスペクト理論ダニエル・カーネマンとエイモス・トヴェルスキー)


 行動経済学で代表的な理論であるのが、プロスペクト理論である。

 それまでの経済学では、「自分の満足の最大化」を図るように人は行動すると考えられてきた。しかしこのプロスペクト理論は、そうではなく「ヒトは、満足したときよりも損をした時の悲しみのほうが大きい」「ヒトは損を避けるように行動する」といったものである。プロスペクトとは「予想」といったことを指す。


 そして、人の中には、個人個人において「参照点(リファレンス・ポイント)」が存在する。これは「その人の中の満足・損失の悲しみの分岐点」である。

 例えばボーナスが月末に30万支給された時を考えてみる。支給される額を、月初に20万と予想していた人にとって(=リファレンス・ポイントが20万)30万の時は満足度が高い。対して、もしボーナスを50万もらえると期待していた人が、実際に30万だった時には損失(=悲しみ)を感じるだろう。この「思ったよりも多く貰えてうれしい」と「もっともらえると思っていた」は、実は同じ感覚ではない。人は「もっともらえると思っていた(損失)」という気持ちを感じるときのほうが、感じ方は大きいのである。

そのため、人は無意識に普段から損失を回避する選択をしがちである。

このような傾向を、人の「損失回避傾向」と呼ぶ。


また、人は自分が利益の中にいるときは「リスク回避的」になり、リスクある選択を避ける傾向にある。つまり保守的になる。しかし、自分が損失の中にいるときには、「リスク愛好的」になり、リスクのある選択をとりがちになる。



〇決定の重み付け(プロスペクト理論


 決定の重み付けとは、確率的なものを客観的にではなく、人は主観的に確率的なものを判断するというものである。

 これは、例えば宝くじの1等が1000万の1だった時、これは日本人全員がその宝くじを購入して当たるのは10人という確率だが、買う人は「もしかしたら当たるかも…」といった考えをする。しかし、医師のがん手術の確率が90%であったとしても「10%では失敗するのか」と悲観的になりがちである。このように、人は、確率的なものの見方では、実際には極端に低確率のものを実際よりも高確率に、逆に実際には高確率なものは、人は低確率に見積もる。


〇確実性効果


確実性効果とは、人は「確実なもの」と「わずかに不確実なもの」では、確実なものを好むという傾向のことである。


例えば、「100%の確率で10万円がもらえる」くじと、「80%の確実で20万もらえるが、20%の確率で0円」のくじであると、人は前者を好みたがるというものである。

ビジネスの場においても、これは保険商品で、「元本保証」のものや、ビールのチケットの「全員キャンペーン」などに利用されている。



〇「双曲割引モデル」


割引率とは、「せっかち度」のことである。従来の伝統的な経済学では、この割引率は時間経過に依らず一定とされてきた。しかし、行動経済学では、現在に近ければ近いほど割引率は高く、逆に将来になれば割引率(せっかち度)は低くなる。というものである。どういうことか。


たとえば、今日もらえるはずだった1万円が、1週間後(7日後)になったとする。その時、主観的にはショックを受けるだろう。しかしこれが、1年後に1万円もらえる約束だったものが、1年と7日後に1万円もらえることになったとて、そんなにショックではない、と人は感じる。これが、せっかち度は現在に近ければ近いほど高い。(割引率は現在に近いほど高くなる)の意味である。人は無意識のうちに、将来よりも「今を優先したい」という気持ちを持ちがちである。


しかし、これらは伝統的な経済学では、前者も後者も「がっかり度は同じ」と考えられてきた。これは、合理的な人間であるならば、現在や将来とは関係なく「7日後は7日後」と、せっかち度(割引率)に変化はないと考えられてきたためである。


〇物の決め方の話


人は直感的に物事を意思決定する(システマティックとヒューリスティック


人は物事を決定するとき、なるべく多くの情報を手に入れ、分析し、その中で決定を下そうとする。これを「システマティック」という。しかし、現在の社会では情報が多く、人が意思決定をするときには必ずしもシステマティックではなく、直感によって「ざっくり」情報を把握し、意思決定を下すことも多い。これを「ヒューリスティック」という。


ヒューリスティックには、以下のような種類がある。

・単純化ヒューリスティック

利用可能性ヒューリスティック

アンカーリング

代表性ヒューリスティック


・単純化ヒューリスティックとは、「四捨五入」のように、情報をざっくりとまとめる行為のことをいう。


利用可能性ヒューリスティックとは、情報の利用可能性が高いほど人はその情報を高く評価するという。例えば、テレビやインターネットで毎回見る情報に対しては、人は「いいものなのかもしれない」という印象を抱きがちである。反対に、ふっと思い出した情報でも、インターネットで調べてもなかなか検索がヒットしないと「探しても出てこないもの」として低く評価されてしまいがちである。


アンカーリングとは、初めの印象に意思決定が影響を及ぼされてしまうことをいう。

例えば洋服屋に行き、「50%OFF!1万円」と書かれていた時、その価格を割安だと感じてしまうことをいう。1万円と書かれているが、もしかしたら定価が1万円のものかもしれない。しかし「50%OFF」と書かれていることによって、その値段が「割安」だと感じてしまうのである。


代表性ヒューリスティックとは、「日本といえば富士山」といったように、物事の詳細を詳しく調べずに、「~といえば」という印象によって物事をざっくりと把握することである。

少数の例を見て大多数を決めるのもこの代表性である。「芸能人は不倫する」「国際野菜は安全」など。

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