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「僕が向こうで死んだなら」 —— ギヨーム・アポリネール

僕が、向こうの戦場で、死んだら君は、
いつか、泣くんだろうね。ああ、愛しいルーよ。
そして僕の想い出は消え去っていくのだろう。
前線で砕け散る砲弾が消えて無くなるように、
咲いたミモザの花に似たその美しい砲弾が。

僕が、向こうの戦場で、死んだら君は、
いつか、泣くんだろうね。ああ、愛しいルーよ。
そして僕の想い出は消え去っていくのだろう。
前線で砕け散る砲弾が消えて無くなるように、
咲いたミモザの花に似たその美しい砲弾が。

でも、宙に飛び散ったその想い出は
僕の血で世界中を覆うだろう。
海も山も谷も、過ぎゆく星たちをも、
バラチエの村の黄金の果実のように、
大空で熟していくまばゆい太陽をも覆って。

万物の中に生き続ける忘れられた想い出となって
僕は、君の美しいバラのちぶさの先を赤く染める。
血のように赤い君の唇、君の赤毛を赤く染める。
君はちっとも年を取ることはなく、その美しい体の
どこもかしこも、愛を受けるために若返り続けるだろう。

命と引き換えに地上に降り注ぐ僕の血は、
太陽にもっと明るい輝きを、花々には
もっと鮮やかな色を、光の速さで与えるだろう。
そして今までにない愛が地上に降りてきて
恋人は遠く離れた君の体の中でもっと強く生きるだろう。

ルーよ、僕が向こうで死んだなら、忘れてしまう想い出を
たまには思い出しておくれ、我を忘れた、
若さの、恋の、はじけるような熱い思いの瞬間に。
僕の血は、幸せが熱くほとばしり出る泉
君はいちばん美しくなり、いちばん幸せになっておくれ。

僕のただ一つの愛、狂おしい思いの人。

1915年1月30日、ニームにて。


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Guillaume Apollinaire の "Si je mourrais là-bas" の翻訳。2014年9月に、ある朗読会-演奏会のためにやったものを、FBに載せたら、何人もの人から意外というほどのリアクションがあった。詩の翻訳は、必要にかられて、あるいは戯れにときどきやるが、アクティヴな反応をもらったのは初めてで、その後もまずない。このときは、文体が気に入ったということで音楽事務所の方から演奏会のプログラム解説執筆を頼まれたというおまけつき。

7年前に訳したときは、鮮烈で美しい愛の詩と思ったが、今読むと、もらったほうはそのときは嬉しくとも、一生呪縛になるかもな、という、美しいばかりでない強烈な支配欲の発露も気になる。


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