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「鬼」

赤提灯の点る処に、鬼居たりけり。

鬼はその獰猛な性格や、猟奇的な殺意を無尽蔵に隠し持ち、潔白の衣を纏いながら爪を研いで居たり。いつ如何なる時も血溜りを残すことはなく、気だるげな目で川の水面に漂白剤を注ぎにけり。

長い年月を経て、鬼に物言いできる人間は、あゝ、消滅——。その巨悪に立ち向かうことをハナから諦め、媚び売る愚か者を散見。

電気街の騒騒しいネオンサインの果てを探すと、鬼の国がある。『萬之国』という名前である。

思えば、“鬼”などという名前をつけて分断を招いてきたのは何時も人間である。“鬼”などと呼ばれている異形の顔を仔細に見詰めてみると、それは瘡蓋が何度も剥がれ、鮮やかな赫が色素沈着した人間の顔だった。

神のつく川は気付けば真っ赤に染まっていて、三途と相違なかった。

私は、鬼と呼ばれた者たちを殺してあげようと思った。ギットギトに痛め付けた奴らの血合は、とてつもなく美味い。早くミンチにして丸めて、焼いて喰ってやりたいと思ふ。

鬼のことを金棒で幾度となく殴りつけ、息の根を止めて骨を折った。だけど、数回瞬きをしたら目の前から鬼の死骸は消えていて、手に握っていたはずの金棒はスマホに変わっていた。

画面を開いたら、人間のものとは思えない単語の羅列が現れ、束の間呼吸すらも忘れた。

Delete、Delete、Delete……!!!!!!!!!!

何もかも消えることはなく、角を生やした異形だけが、スマホを覗き込んでいたとさ。
時計の針も、既に死んでいたのさ。

End

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