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群れになった家族の話(6)

第六章  群れという家族の話
 
新しい家
 
 クイミが十三才、ジッチが十一歳、ジュナが七歳、ウニヨンが三歳になった年。われわれの群れにまたまた大きな転機が訪れた。心配しないでいいよ。五男坊を迎え入れたわけではないからね。
 これまた人間の都合によって引っ越すことになったのだ。
 実をいうと人間は今まで仕事の都合もあって七~八回の引っ越しをしてきている。もう引っ越しする程の転勤もないだろうとマンションを購入して三年後にクイミを迎えたので、私たち群れはマンション暮らしであった。犬四匹と人間二人でマンション暮らしとはさぞかし広いのであろうと思いがちかもしれないけれど、それがまたいたって普通の広さ。よく十四年も暮らしてこれたなあと思わざるを得ない。
 人間の都合とはいえ、ここにきての引っ越しとなるとさあ大変。まず考えたことはやはりクイミたちの暮らしやすさ。そうなってくるともちろん庭付きという条件は外せない。
人間の終活を考えると賃貸がいいということになり物件探しが始まった。
 まず、①犬四匹を室内で飼う。②庭付き。③戸建て。この三つの外せない条件で探すとなるとかなり大変であった。でも我が家の群れには強運のジュナ、「良い知らせ」をもたらすウニヨンがいるから大丈夫!家探しから一か月で契約から引っ越しまで済ませるという神業をやってのけたのである。
 今回の引っ越しには人間の体調面や仕事などいろいろな問題はあったが、群れがバラバラになることなく一緒にいられる幸せを求めてのことだったので、今となってみれば判断は間違っていなかったと信じている。
 新しい家はもちろん三つの条件をすべてクリアしていることは言うまでもない。特に庭に関しては申し分ないくらいの広い庭だ。
 毎日起きたら、芝生の庭に飛び出していく四匹の姿を見る幸せ。おもちゃを追いかけて思いっきり走り回るジッチとジュナ。その二匹をただただ追いかけるウニヨン。そして、自分のペースで木々の間をアジリティのように散策するクイミ。四匹四様の楽しみ方で人間を楽しませてくれている。
 この家に引っ越してきた理由は人間にあったけれども、またもやこの四匹に救われている。どれだけの幸せを私たち人間に与えてくれるのだろうか。本当に素晴らしい自慢の息子たちだ。 
  
   群れの現実的な話
 
 数えきれないほどの幸せをくれる我が家の息子たちだけど、現実的な話をすると結構お金がかかるのだ。たとえばご飯の話。人間よりもエンゲル係数は高い。それだけではない。毎月のフィラリアの予防薬にノミ・ダニの対策、年一回の狂犬病の注射に混合ワクチン。それらは人間の義務として当たり前のことだ。そして、急な病院には高額な費用がかかる。特に我が家の三男ジュナは、膵炎での入院、腫瘍摘出の手術と入院、アトピー性皮膚炎の治療の継続と病院のスタッフとは顔なじみになっている。そうなってくると治療費は大変なものである。しかし、家族で群れなのだ。人間は当たり前に対応する。そのことは苦痛ではない。当然のことなのだ。あるテレビ番組で「小象を守る群れ」を見たことがある。象の群れは小象を群れ全体で守るらしい。どんなにのどが渇いていようと、どんなに空腹であろうと小象に何かあった時にはみんなで立ち止まり、待ってあげる。そして一緒にのどの渇きを癒し、空腹を満たすのだ。まさに群れとはそういうものだと思う。それが人間と犬の群れであっても。
 ペットに関しては、ペット市場や殺処分等のさまざまな問題もある。それはペットが悪いの?そんなわけあるはずがない。全ては人間だ。群れとして家族として、そして大切なパートナーとして一緒にいることができないのであれば、決して迎えるべきではない。
 そしてもう一つの現実。それは看取るということだ。我が家の人間二人はそのつらさや苦痛を承知の上で四頭をむかえた。しかし、耐えきれるか不安だ。いや、耐えきれるわけがない。その耐えきれないほどの悲しみと心の苦痛が四回と考えると辛くなってしまうが、別れを嘆き悲しむよりも、今を精一杯後悔なく過ごしていくことを選んだのだ。そんなかっこいいことを思っていても、その時が来たら人間の精神状態を保障することができないことはわかっている。しかし、それが現実でありそしてこの子たちの輝きなのだと思う。
  
   幸せは続くよどこまでも
 
 長男のクイミが我が家に来てから十三年の間に群れは完成形を迎えたんだけど、この群れはこの完成形を崩すことなく、さらに絆を深めていくよ。なぜならクイミ達のおかげで人間は思い切って大胆に人生の舵を切ることができたし、この子たちと楽しく暮らしていくために今必要なことは何なのか、毎日考えて生活することができるようになってるからね。でも、けしてクイミ達が中心で人間が我慢しているのかって言ったらもちろんそういうことは一切ない。群れで暮らすことで犬も人間も相乗効果で最大幸福を手にしたって感じかな。
 世の中には、
「何を犬ごときに大げさな・・・。」
「犬はどう考えても犬でしかない。家族とはいえないよ。」
と思っている人もいるのはわかるよ。当然だし、別にそのことを否定なんてしないよ。そう思うのであればそれでいいじゃない?でも、逆に、
「犬は人間の人生に大きな貢献をし、人生を豊かにするうえで欠かせない存在。」
「犬は人間の最大の家族だ。」
という考えもあるんだということを尊重してほしいなと思う。誰にも押し付けたりはしないから、そう思っている人たちが新たな群れの中で幸せを感じるだけでいいんだから。
 人間は犬を飼っていると思っているかもしれないし、実際はそうかもしれないけれど、犬は人間の人生に大きな、想像もできないくらいの大きな幸せをくれる。想像なんてできないよ。人間の考えきれる範囲を超えた幸せをくれるんだもの。
 私だって、この子たちがいなければ退職に踏み切ることも躊躇しただろうし、そのあとの引っ越しのように終活を明るく考えることはできなかっただろう。大げさではなく私のこれからの人生を今まで以上に豊かにしてくれると確信しているよ。五十歳を過ぎ六十歳を目の前にしてこんなにワクワク楽しい毎日を送れるってすごいことだと思う。
 クイミ、ジッチ、ジュナ、ウニヨンは間違いなく私たちの宝物。かけがえのない群れの中で毎日毎日味わう幸せ。この子たちは自分たちの存在がこんなにも大きいんだという意識は全くないのかもしれない。一途に我々人間をみつめるだけ。そしてみつめる先の瞳に自分が写っていることが人生のこの上ないご褒美と信じて疑わない毎日。
 想像できる?本当に毎日が幸せなんだよ。肉球の足音。ガシガシ掻いている音。足元をみるとすやすや眠っている姿。存在そのものが人間に幸せを運んでくれている。今日も、人間のスリッパを枕に寝ているウニヨン。ひそかに様子を伺いながら玄関近くに陣取っているジュナ。ベッドで全く同じ格好で眠っているクイミとジッチ。ありがとう。そばにいてくれて。いつも励ましてくれて。そして、ぬくもりで愛を伝えてくれて。
 一匹、一匹物語があるように、これからも我が家の群れの物語は続くよ。
 さあ!グッボーイたち!今日は何する?

                              おしまい

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