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VRChatにおける謎「Dahlia」調査記録〔⑫加層現実〕[放射冠②/JUNO.]

やはりそうだ、四回を一周期として繰り返している。

己の脈動に合わせて、明滅を記録する。
指先で腿に触れながら、ひとつ、ふたつ。

私は数えながら、同時に思い出していた。

世界と会話するという事。
もちろんこのVRSNSでは、人同士による会話の交流が、人々の目に多くとまり、それこそコンテンツの華であると喧伝されている様に思う。

ただ、忘れてはいけないのは、私達を取り巻くこの世界も呼吸を続けているということだ。

世界を知り、世界を抱き、世界に祈る。

人が語るに比類する雄弁を持って、多くの世界が、私達と対話を続けてきた。

世界の美しさは、私たちに直に伝わる交流だが、世界に残された謎を追う行為は、数少ない世界と自分との対話の機会だった。

—— みっつ、よっつ。

点と線をなぞる指が、震えながら答えを導く。

a..t..t..t..?いや違う…

・---- --・・・ ・・--- ・・・--

その符合が表すのは場所。
押し開くべき残された扉を、確かに私は憶えている。

Letting Go While Holding


世界がいよいよ閉じようとしている。
Dahliaの終に向かう放射冠の世界は、俄かにその様相を変えていた。

UNIT-5320

かつての軽妙な世界たちは影を潜め、どこか荒廃を感じさせる静かな世界たちが、後へ、後へと続いている。

Still right here ․․

臨終を前にさせられた、見取り役のような気持ちにもさせられる。
その時を前に、この内に湧き上がる不安は、知らざるものへの畏怖か、あるいは。

UNIT-7281

円錐のふちより渦を巻き、中心へと降りていく様な遠い旅路。
それらが、遥かな帰路なのだとしたら、いったい私は何処へ帰るというのか。

One in a Million


群青の空無き、幾星霜。海原に明滅する言葉をたどって、

・---- --・・・ ・・--- ・・・--

再びここへと、導かれた。

ここはUNIT-「1723」A.
わだつみの声は、今いよいよ遠い。



「その先へは進んではいけない」と理性が告げている。
頭痛がいつにも増して酷い。

戻るという選択肢は最初から無い。
私は扉に手をかけ、世界を乗り換える。

The idea of you

入るとそこは、理路整然と構造物が設置された部屋だった。

かつてのDahliaの最深部、「重工」の様相にどこか似ている。

私は高鳴る鼓動を抑えながら、階段を駆け上がる。

暗さのせいか、はたまた眩しさのせいか、頭痛がひどい。

やがて、行き場を無くしたことに気づけば、
最後にここへとたどり着く。

私の知る。全てのDahlia世界の、最後の扉。

何の変哲もない、荘厳さも、劇的な絵面も、何もない、ただの扉だ。

だが私は、知っている。知っていた。
ここが終着点だと。

ありもしない僅かな可能性と、希望にかけて、ここまでやってきた。

震える手で、扉に触れる。

扉は固く開かない。

それどころか、「触れる」事すらできない。

それはそうだ。
何せ「扉のオブジェクト」に何も設定されていないのだから。

「ここより先は何もない。」

それが事実だ。
追ってきた全ての収束点は、ここに帰着し、ここで終わっている。

わかっている。わかっていたのだ。

いくら妄想の中へ逃げ込んでも、目に映るものを都合よく解釈しても、その終わりを回避しようとしても。

「ここより先は何もない。」

長い長い旅は、ここで終わる。

扉に額を擦り付け、崩れ落ちる。

目蓋を閉じ、「体のいい言い訳」を思い浮かべる。

"私は、ここより引き返し、また別の世界を探索し続けながら、時折この懐かしい世界たちを思い出しながら、このVRSNSの片隅で過ごしていく”

”多くの者たちが忘れて消えてゆく中、最後までその思い出を守り続ける。
それが私に架せられた役割”

"美しい思い出に感謝しながら、私はここで墓所の守り人になる、
時折訪れる人らに、思い出話などしながら"


・・・・・


・・・



嗤わせるな。



「ここより先は何もない。」
それが揺るがぬ事実。


だが、それが何だというのだ。


事実などという狭量の徒に、私の愛した昏く歪なこの物語を轢殺する権利など、


一糸たりとも許さない。


扉に掌を「押しあてる」。
つんざく耳鳴りと共に、その頭痛が凪の様におさまってゆく。


己が行おうとしている行為に、行く末を俯瞰する視点が警鐘を鳴らす。
それが呼び込む結果が、お前に何をもたらすのかを、今際の相貌を突きつけるが如く自身に開示してくる。


知ったことか。


己の信じた美しさを護れずして、何がある。
煮沸された心が、即座に全身へと伝播する。


唱えるは、原初よりヒトの種のみがその到達を許された、唯一にして絶対の力。
仮想(Virtual)より想いを紡ぐ、加層(Vertical)認識(Reality)浸食。


きっと、可能性だけがそれを作るのだろう。



「鍵盤に微かに触れ、波の静寂の中へ迷い、星の果てに魂を放つ」

Aktivieren 活性賦活

事象穿つ宣言をここへ

هذا الهواء، كان يشعر وكأنه منذ زمن بعيد أو في المستقبل البعي.

Mischen 攪拌混交

源流抱く種芽をここへ

樹影婆娑 雨絲飛揚 鯨魚翱翔 鏡影流轉 塵埃飄揚 光芒閃耀

53 61 63 72 69 66 69 63 69 6E 67 20 61 72 63 68 65 74 79 70 65 73 20 61 6E 64 20 74 72 61 6E 73 66 6F 72 6D 69 6E 67 20 74 68 65 20 63 6F 6D 70 6F 73 69 74 69 6F 6E 20 66 72 6F 6D 20 75 6E 63 6F 6E 73 63 69 6F 75 73 6E 65 73 73 2E

Ansammeln 蓄積無尽

教理拝する祈りをここへ

Həyəldə get, sənin hekayənin sükunət gətirsin.

⌇⏃☊⍀⟟⎎⟟☊⟒ ⎎⏃☊⟒⌰⟒⌇⌇ ⌿⍀⏃⊬⟒⍀ ⏁⍜ ⏁⍀⏃⋏⌇⎎⍜⍀⋔ ☊⍜⋏⌇☊⟟⍜⎍⌇⋏⟒⌇⌇ ⍀⏃⏁⊑⟒⍀ ⏁⊑⏃⋏ ⟒⌖⟟⌇⏁⟟⋏☌ ⎎⏃☊⏁⌇.

Kondensieren 凝縮励起

揚棄推挽の適否をここへ

ありて なく なきて あろう もの の かたりべ
The chronicler of a fable,
existing in nonexistence, and nonexisting in existence.






რაც გაქვს არის გასაღები და არა გალია.
(手にするは鍵であり、檻ではない)




闢け。

祝福たる呪詛は形而上の事実に干渉し、認識を毎秒に書き換える。

明らかな狂気。しかし故にたどり着く物語の地平線。

地軸時軸逆順する場所ゆえに出来た理の亀裂に手を掛け。やがて訪れる恐れすら意に介さず、世界を拓く。

滂沱の如く、世界そのものが、その身の内に収納され、また奔出してゆく。

灰塵となり零れ落ちそうになる意識を、一掴み手に取り、切り離し、産み落とす。

始まる事のない、終わる事のない、虚と実が、螺旋を描いてそれを縫い上げ始める。

行っておいで、愛しい探索者。ここからがあなたの物語だ。

塩の塔は崩れ去り、やがてそれは海へと至る。

藁船に載せられた僅かな意識が、物語の川を流れてゆく。

その場所へ。その先へ。

祈りを受けた現身が、柔らかな布の舞い降る様に、約束の場所、その部屋へと辿り着き、降り立った。

懐かしい光を、一度そっと撫で、私は横たわる。

目覚めるために委ねたこの身を、今一度微睡みの中へ。

紡がれる昏く歪な愛しい世界を、この鼓動が胎蔵するように。

さようなら、愛しい花咲く星たち。

さようなら罪なき無垢のあなた。


静寂の向こうで、52Hzの美しい声が呼んでいる。

海溝はいよいよ深く。私達のすべてを呑み込んでいく。



もう行かないと。





私は、世界とその謎を愛し旅する者。





私は、世界観を自炊する罪深き藁糸。





私は、——————————————。







- All's right with the world. -









◇無言者の走り書き


※現在では、「Edge of Memory」のワールドから選択制ポータル限定でアクセス出来るようになっています。各オーナーから、ワールド名を選択し、世界に進入してください。

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