見出し画像

神経発達症(発達障害)息子の母になる〜息子の失踪②


「もしもし、お電話変わりました。」


「奥様でいらっしゃいますか?
私、○○警察署の刑事のAと申します」

(刑事?!
刑事から電話…)

わたしは頭の中が真っ白になり
次の言葉を紡げなくなりました。

ここからの会話は、うろ覚えです。

刑事A
「ご主人から話を聞いたと思いますが
そちらに息子さんはいらっしゃいましたか?」

「いえ、どこにもいません…お互いが、お互いがいる場所に息子がいると思っていて…」

情けなさと申し訳なさだけ
はっきり覚えていました。

夫は仕事に戻らず、立ち尽くしたまま私の顔を見ていました。

よく見ると、目には涙が溜まっていました。

刑事A
「あー、今ちょっと前に
海上警備に出ていた海保の方から、
1人で砂浜にいる男の子を保護したと連絡がありまして、

急行したところ名前が言えない男の子
海保の方と一緒にいまして。

我々の方で引き取って
周辺の住民の方に聞き込みをしたところ

多分、Mさん(我が家)の所の子供なんじゃないかなと言うことで、今電話差し上げた次第です。

子供さんは怪我とかもないですし
溺れていたとかでもなく
とっても元気ですので、
今からお宅に伺ってもよろしいですか?
確認していただきたいので。」


「!!はい!」

そこからすぐに刑事さん達が来ました。
うちが自営業やっていると知り

気を遣って、普通の車(覆面パトカー2台)で
家の前に停車して下さいました。


男性刑事Aさんと、女性刑事Bさんが
チャイムと共に現れました。軽く挨拶をしてからBさんの方が
「保護した子供さんを連れてきますね」
と言って、もう1台の車の運転席のほうに声をかけに行きました。

が、

「あれ?いない」
外に行った女性刑事Bさんが驚いて声を上げました。
いない?!

「え!?」

物騒な声が聞こえて男性刑事Aさんと一緒に外に飛び出します。


すると、そこに
どこからともなく、
警察官の制服をびしょびしょに濡らした
若そうな男性警察官の方が
登場しました。

息子をおぶって。


「すいません!散歩したいと言われたので
おんぶして回ってました。」


息を切らした警察官のお兄さんの背中の上で
息子は満足そうに笑っていますが、
よく見ると濡れていて、履いていたサンダルも服もズボンも水と砂をたっぷり抱え込んでいて
お兄さんの背中は水と砂で汚れていました。


それまで黙って私の横で立ち尽くしていただけの夫が
ハッとして、息子を引き取りに行きます。

「すみません、本当に申し訳ありません。
息子で間違いないです。
制服まで汚してしまって、ごめんなさい」

警察官のお兄さんは
謝る半泣きの私に
「あぁ、制服の替えはあるので大丈夫ですよ。気にしないでください。

それじゃあ。
ぼく、もうお家を1人で飛び出したらダメだよ、みんな心配しちゃうからね?」

と、笑顔で返事をして息子を夫の元に送り出してくださいました。

みんなにかまってもらった!
と思っているのかはわかりませんが、息子はキャーキャーと歓声を上げながら上機嫌で夫に抱きつきました。

夫は黙って息子を抱き止めますが

「………」

さっきから何も言葉を発さず動きも鈍い
夫の顔を見ると

泣いていました。

「自分は着替えに帰ります。」
と一言を残して去っていったお兄さんを見送り
家に残った刑事A,Bさん達も夫が泣いていることに気づき、

「息子さんとお母さんだけ、ちょっとこちらでお話聞かせてもらっていいですか?

あ、先に着替えた方がいいかな?」

と男性刑事Aさんは玄関のほうに私と息子を誘導しました。


息子は、玄関で砂と海水まみれになったサンダルと、Tシャツ短パンを脱ぎ捨て
玄関の向かいの寝室に突っ込み
歓声を上げながら
裸でベッドにダイブしました。

「上機嫌ですね。」
男性刑事Aさんは笑いましたが

私はニコリともできませんでした。


「私たち、聞き込み中にも
海に入りたがってしまって、
海の中にザブザブ入ったわけではないんですが
軽く浸かってしまって、こんなに濡れてしまって砂まみれになってしまいました。すみません」

女性刑事Bさんは、
息子の濡れた服やサンダルを見て、
申し訳なさそうに私に言いました。

「いえ、わたしたちの不手際で、逆に申し訳ありません」

私も改めて謝罪をしてから
「砂まみれだからシャワー入ってきな」
と息子に促し、息子もそれに従ってお風呂に行きました。

「息子さんは、こちらが言ってることはわかるんですね。」

私と息子のやりとりを見ていた男性刑事Aさんは
確認するためか、大きめの手帳とペンを肩掛けカバンから取りだしながら問いました。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?