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ドラえもんが打った「そば」は「手打ちそば」?(役に立たないそば屋の話9)

近頃は、悩み事があってどうもよく眠れない。
夢の中でも、う〜んどっちだろうと迷っていたりする。

その悩みとは。

もし、鉄腕アトムがそばを打ったら、
「手打ちそば」というのだろうか。

リモコンで動く鉄人28号が、そばを打ったらどうなるのか。
スーパーロボットであるエイトマンが(古キャラばかりで申し訳ない)
鉢巻きをしてそばを打っても、「手打ちそば」というのだろうか。

なんだ、そんなことかと笑われそうだが、
私にとっては、とても深刻な問題なのだ。

若い時に、というから、だいぶ前のことだ、
スキーの帰りにそば屋に寄った。

えっ、スキーの後にそばじゃ物足りないだろ、
と言う人は、滑り足りない証拠。
くたくたになるまで滑り込んだ後には、トンカツとかピザとか、
脂っこいもの、味の濃いものは胃が受け付けてくれない。

だから当時のスキー仲間の間では、帰りには、まず消化のいいそばで
お腹を落ち着かせることになっていた。

さて、そのそば屋、国道沿いで、結構、繁盛している。
出てきたそばを見ると、太いのやら細いのやら三角のやらのごちゃ混ぜ。
極めつけは、一番上にどんと載せられている、
きしめんみたいな太い切れ端。

思わず出た友人の一言。

「なんだ、ヘタクソなそばだな。」

この愛すべき友人、竹を割ったような真っすぐな性格。
体格もいいし、スキー教師をしているし、とにかく声が大きい。
本人は小さく話したつもりでも、
その一言は、小さな店の中で、夏の雷のように轟いたのだ。

その声に厨房から顔を出した親爺さん。
友人の声程ではないが、田んぼのカエル並みの声で一言。

「うちのそばは、手打ちだからね。」

「あっ、すみません。」
そう謝って、食べにくいそばを黙々と飲み込むと、
早々に店を引き上げた我々だった。

くどいようにいうけれど、
その友人は、本当に正直者だ。
心にもないことを口にしたりはしない。
頭に「ばか」という帽子を付けてもいいほど正直な奴だった。

さて、手打ち風製麺機の展示会。

ミキサーで練られたそば生地が、ローラーで、
リズムよく薄く延ばされていく。
なんでも、電子制御で、伸ばす力を調整しているとか。
だから、表面が、テカっとならないのだそうだ。
そして畳まれ、高速カッターでトントントン。
下のトレイからは、きれいに揃ったそばが出てくる。

なるほど、これならパートさんでも半日も練習すれば、
整ったそばが作れるのだ。

係の人の説明。
「このダイヤルを回すとそばの太さが変わります。
 太さの違うそばを交ぜれば、手打ちと同じです。」

えっ、手打ちっていうのは、単なる不揃いのそばのことをいうの。
ただそれだけではないだろー、、と思いつつも、
最近の製麺機の性能の良さに驚かされてしまった。

昭和の初めの頃に、ロール式の製麺機が普及してから
そばを手で作る店など、なくなってしまった。

強い力で延ばすから、表面がつるつるののっぺらぼうで、
角の丸いそばばかり。
そば屋さんは、こだわるところが無くなっちまったから、
天ぷらなどの種物や、汁の作りに凝ったりした。

戦後、かなりたってから手打ちが見直され、
香りの高い、角のたったそばが食べられるようになった。

最初の頃の手打ちそばは、技術も試行錯誤で、
道具も揃っていなかった。
それでも、工夫を重ねていったのだね。
初期の頃の手打ちそば屋は、
手打ちである証拠に、
三角になったそばの切れ端を上に置いたりした。
前の店のように。

そのうちに、製粉屋さんも、
手打ちに対応する粉を作るようになり、
昭和の終わり頃には、
手打ちそばのブームとなったのだね。

う〜ん、やっぱりそばは「手打ち」でなくては、
などと言っていたら、今度は機械の方が追い付いてきたのだ。

「下手な手打ちより、よっぽどおいしいですよ。」
との係の人の話。思わず納得。

そう、機械で打った方が、少なくとも「あの」下手な手打ちよりいい。

ちょっと待てよ。「下手な手打ちより、、、、。」
ということは。

「上手な手打ちには負けるけどね、へへへ。」
と言うことじゃないか。
なんだ、機械屋さんだって、まだ手打ちにはかなわないって、
しっかりと認めているんだ。

今や技術の進歩は「秒進分歩」
いつ、上手な手打ちよりおいしい「そば」を作る機械ができるとも限らない。

象の鼻のような太いそば(空気穴を探してしまった)や、
スプーンでしか食べられないようなぶつ切りのそばを出して、
「手打ちだから」などと威張ってはいられないのだ。

鉄腕アトムが、
きれいなモッチリとしたそばを打ったらどうしよう。

猫形ロボットであるドラえもんが、あの丸っこい手で、
私のより細いそばを切っていたりしたら、、、、どうしよう。

Dr.スランプのアラレちゃんが、
「んちゃ!」と言いながらすごいスピードでそばを打ったら、、、。

手打ちそば屋は眠れないのだ。
(猫より寝てるって言われているけれど。)


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