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仏 入信者増加の流れ

カトリック教会は、他の伝統宗教同様、近代化された国々で帰依する人が毎年減少するのに加え、ここ十数年、世界中で聖職者による性虐待というスキャンダルも続出し、そこにコロナ禍による行動制限が追い討ちをかけ、まったくいいことナシな状況が続いてきました。
そうした中、久しぶりな前向きなニュースです。フランスで、大人の洗礼が増加している、ようです。(DennisによるPixabayからの洗礼盤の画像

「仏 カトリック信者急増、復活祭に7,000人以上の成人洗礼の報告」ラクロワ誌、2024年3月28日

記事の内容としては、3月末の今年の復活徹夜祭での大人の洗礼が7,135人で、昨年より31%増加。この傾向はフランス全土に渡っていて、10の教区で2倍、21の教区で1.5〜2倍となっていて、コロナ禍からの回復もあるが、近年堅調な伸び、とのこと。内訳としては、若者の洗礼が多く、3歳までの幼児洗礼が毎年減少し続いけている中、18〜25歳のグループの洗礼は増加し、今年の成人洗礼の36%を占め、コロナ禍前の23%から増加。この年代は過去5年で2.5倍となっている。26〜40歳のグループが人数的には最大で、ここも5年で1.5倍となっている。
受洗者の家族の宗教は、最多が「カトリック」で61%あるものの、「宗教なし」が4分の1を占めた。残りは「その他の宗教」で、このうち「イスラム教」は5%。この結果を見ると、移民がたくさん改宗している、というわけではなく、キリスト教離れした家族の子どもたちが、教会に戻っている数が増えている、と言えそうです。フランスの「信仰教育全国事業」代表のカテリーヌ・シュバリエさんは、「この数字は、信仰の基礎がますますわからなくなってきている現代、霊的な同伴の重要性を考える必要性を示しています」と語っています。
職業は、いわゆる「肉体労働者」が38%、次いで「学生」25%など、さまざま。男女比は1対2で、これは「世界中で同じ」。地方での伸びが顕著で、「洗礼増はもはや都市の現象ではない」と、シュバリエさんは話しています。

洗礼増の原因を仏司教団が調査したところ、建築物、ステンドグラス、像、教会の静けさ、巡礼道などの「宗教的遺産」の影響と答えた人が32%で最多、「若者は、美、聖を求めている」と解説されています。
さらに、同じ調査の対象として、成人洗礼に入らない、11〜17歳の児童生徒5000人ほどの洗礼志願者がいて、これも1.5倍に増加しているとのこと。

「仏 カトリックの春」ラクロワ誌、2024年4月3日

この状況を、ラクロワ誌の編集者のジャン=ピエール・デニスさんが解説しています。
世間から見るステレオタイプのカトリックのイメージは、「ちょっと意地悪で、ちょっと老人で、難解なテキストにこだわり、日曜日はミサを好んで寝泊まりし、性的虐待を隠蔽することを主な活動としている時代遅れの宗派に従うことを主張する、一種の反動的な単純人間。この敬虔な人が執着するのは、女性が自分の身体を自由にするのを禁じること、LGBTが自分の人生を生きるのを妨げること、そして病者にできるだけ長く苦しみを強いることの3点」だと(ちょっと手厳しいが、現実?)。しかし、一般社会でこうした「カトリック信者」が魅力的でないのと同様、教会内部の人間にとっても魅力はないものです。
7千人も洗礼を受けることは「衝撃的」で、教会側の人間ほど、この現象に当惑しているようで、「彼らはだまされているのか」とまで語ります。こうした「信仰回帰」がいつまで続くのかはわからない、と前置きするものの、最後に福音書から次のエピソードを引き合いに出します。つまり、状況が悪化(イエスの死)すると弟子たちは散り散りに逃げてしまいますが、ベタニアでイエスに香油を塗った女と、百人隊長は、イエスに従う者ではないのに、イエスが救い主であると告白した、と。「教会が地に足をつけず、わたしたち生温い弟子たちが現代文化の混乱の中でフラフラしているとき、神は人々をご自身のもとに引き寄せる方法を見出される」。入信してくる人たちこそが、この信仰に大事な光を見出しているのかもしれません。これを、「カトリックの春」と呼んでいます。

所感

日本のように非キリスト教国では、大人が何らかのきっかけで洗礼を受けることは日常的なことですが、フランスのようなカトリック国では(日本でも長崎などでは)、日本で子どもの誕生とともにお宮参りをするように、教会で洗礼を受けるのが習慣でしたから、大人が洗礼を受けるというのは、とても珍しいことでした。しかし、1本目の記事のように、幼児に洗礼を受けさせない家族がどんどん増え、成長したその子どもたちが教会に戻ってきている、という現象が起きていることには、確かに驚愕させられます。2本目の記事のとおり、この現象は一時的なものか、継続するのか、洗礼を受けた人は本当に何を求めているのか、などなど、気になるところです。宗教社会学者が活躍することでしょう。

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