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ネモフィラ


【概要】

・blっぽいがblではない中途半端な終わり方
・小説ってほどでもない駄文

【小話】
昔書いていたものですがBEだったのでHEに改造いたしました。いつかBEのも載せる予定です。
中学受験時代に書いた話だと思われますが、感慨深いものがありました。

「それはダメだよ」
とどこからともなく声がした。視線の先には黄色い帽子の小さな男の子がいる。
「花は頑張って綺麗に咲いてるんだから、むしったりしたら可哀想でしょ」
なんだ優等生ぶりっ子か、と心の中で舌打ちする。背ものっぽで体格もいい六年の俺に歯向かうとは。
「お前一年か、もうやらねーよ」
中学受験のストレスで花に当たっていたところを見られていたなんて恥ずかしい……。
「なんか、」
「しつけーよ」
俺は早足でその場を離れた。

*******

あの一年……懐かしいな。
高校三年、大学受験を控えた自分が昔を思い起こした。今でも思い出す。かなり記憶に残る少年だったのだろうと思う。
「あんな一年生、今思えば嫌われるタイプだろ?」
「まあ……ちょっと引くわな」
親友の柳はポテトをつまみながら頷いた。
「でもたまに、あの子どうなってるんかなーって思うんだよな」
「どこかでバッタリ会ったとしても気づかねーだろ。かなり前の話で、お互い顔も変わってるだろうし」
普通にはその通りだ。
しかし、あれは何かの伏線では? と思うこともある。何より俺は、あの少年の顔を何年経っても忘れていない。

柳と別れた後、俺はかつての小学校に向かっていた。あの少年と会えるなんて可能性は1%もないだろうが、久しぶりにあの場所に立ってみたくなった。
丁度今は“花”……ネモフィラが咲く季節である。

やはりネモフィラはそこに咲いていた。変わらない光景が嬉しくて、思わずその場にかがむ。

『それはダメだよ』

という、透き通るような声が頭で繰り返される。
あの時花をむしっていたら、一生それを罪悪感として抱えて生きていくことになっていたかもしれない。中学受験が辛くて植物に当たってしまった過去が、消せない嫌な記憶として残ったかもしれない。
「ありがとうって言いたかったな」
あの時は子供だった。
尚更あの少年のことが恋しくなった。名前は知らないが、顔を見たらすぐにわかる。きっとわかる。

「また取ろうとしてますか?」
後ろから透明感のある声が聞こえた。不思議と耳に馴染んでいて、鼓膜に優しく届く。
「え?」
「また会いましたね」
後ろを向いて、すぐにわかった。中学校の制服。細いがやや引き締まった体で立っている。
「お前……」
昔の面影を残した顔で目を細め、微笑む少年がこちらに寄ってきた。背丈は自分と同じくらいになっていた。

「先輩、お久しぶりです……いえ、……はじめましての方がいいんですかね?」
「いや……あの」
「だって名前も知らないですから」
「飯田だ。飯田一樹」
「俺は長谷川真です」
目が、記憶が時間をかけて交わる。
ネモフィラがそばで微かに揺れた。だってこの二人の関係は二人とネモフィラしか知らない。今この空間でそれが合わさった。



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