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旅立つ母を見つめながら

目の前にいるのに
私の名を呼んでくれない
手を握り返してくれることもない
目を合わせることもない

母が私の知らない姿になってひと月
口からは人工呼吸器
鼻からは経管栄養
排泄には他人の手

母に会いに行くのは
懐かしくて心落ち着くこと
嬉しいことだったのに
今は毎回心が潰れる

最後に言葉を交わしたのは
めずらしく東京に雪が積もった夜
いつも愚痴を聞いてくれては
同調することなく意見を言ってくれて
それでも世界一私の味方でいてくれた母

もう1度話がしたい
微笑みが見たい
でも、それはもう叶わないこと

今、何が見えている?
何が聞こえている?
何を思っている?

圧倒的な寂しさと悲しさに襲われながら
母が生きた心を必死で感じ取る
聞くことのできない言葉をかき集める
知ることのできない思いを掬いとる

確実に近づいている
母がいない未知の世界
私の外側も内側も
決定的に変化するだろう

幻影を五感に染み込ませられるよう
もうすぐ旅立つ母を見つめながら
残された時間を生きてみる







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