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時間反転星宇宙人の密度行列を測定する時

堀田さんが、地球人が時間反転星に住む宇宙人に会う場合の考察「ある1つの時間の矢のパラドックス ~時間反転星に地球から宇宙船が到着する時~」を書いていた。量子論の場合にも触れているので「そうした考察は初めてだ」と思って感激したのだが、実際に読むと「この量子力学の問題も、まだ解かれていません。」だけでほとんど内容がなかったので、私の思うところを書いておきたい。なお、他の記事と同様に私の書くことに、特段の物理学的な根拠があるわけではありません。

量子論の場合

量子論の場合に古典論と異なることは、ある対象(部分系)の状態を見ると(測定すると)、部分系の状態には射影が起こることがあることである。地球人クルーが時間反転星の宇宙人と会話したり、手を握ったりするということは、地球人が宇宙人(部分系)を測定するということである。量子ネイティブとしては、宇宙人は、当然に、密度行列で記述される部分系だと考えるべきだろう。地球人クルーが宇宙人と会話すれば(実際は会話の前にはるか遠くで見たときに)、宇宙人の密度行列は、会話する前の密度行列とは異なる密度行列になる可能性がある。量子論の場合に触れておりながら、この可能性に触れていないことが、堀田さんの記事を読んだときに私が残念に感じたことである。

宇宙人に射影がおこって異なる密度行列になったとしよう。その方が考察が広がって面白いだろう。さて、射影後の宇宙人は、知的なのだろうか? そもそも宇宙人としての形状を保っているのだろうか? そうしたことすらわからなくなるのが量子論の場合であり、量子論の面白さである。堀田さんがこの点に触れておらず私は残念だ。

古典論の場合

ついでなので、量子論の場合よりもつまらないが、古典論の場合についても私見を記載しておこう。ただし、地球人と宇宙人の場合ではなく、箱の中を運動するN粒子系の場合である。

堀田さんは「高い確率でその大きな系は外部観測者の感覚的な時間の方向に沿う運動(観測者にとってエントロピーが増加して見える方向の運動)を始めるだろうと予想することも可能です。」と書いており、私の考えも同じで、「高い確率でその大きな系は外部観測者の感覚的な時間の方向に沿う運動(観測者にとってエントロピーが増加して見える方向の運動)を始める」である。しかし、堀田さんは明示していないが、「高い確率で…」ということは、低い確率でそうではないということだ。エントロピーが減っていくことも低い確率でありえるだろう。

「高い確率で…」というのは、初期状態がランダムに選ばれた際に、どうなるかということである。すなわち、エントロピーが時間と共に減少していく部分系と増えていく部分系がランダムにあって、時間と共に相互作用するように近づければ、ほぼ100%の確率でエントロピーが増加していく状態になるだろう。堀田さんは「この問題の明確の答えは、まだ与えられていません」と書いているが、物理学者でもない私にも明確で、そう考えない物理学者がいるのであれば不思議に思う。明確な答えはすでにあると私には思える。どちらかというと「自明なので物理学者にとっては書くにも値しない」ということではないかと私には思われる。

一方ランダムに選ぶのではなく、意識的にエントロピーが減少していく状態を作り初期状態として準備することができるのであれば、両系が重なって相互作用し始めた後にエントロピーが減少し続けるように初期状態を準備することだってできるだろう(そんなことを意識せず適当に部分系を2つ用意すれば合体後にエントロピーは増えていくだろう)。その理由は、粒子数が2倍になったからといって、できることができなくなるとは考えにくいからである。粒子数Nのエントロピーが減少していく状態を用意できるなら、場所が離れた粒子数Nと粒子数Nの状態を用意することだって、きっとできる。

一方で、ランダムでも良いので意識的にエントロピーが減っていく初期状態を地球人に用意できるかというと、それは経験的にたぶんできはしない。そういう初期状態が偶然現れるのを待つしかないであろう。そして、それにはほぼ無限の時間がかかる。堀田さんは「一方には普通に時間発展する初期状態、他方にはその時間反転運動が起こるように初期状態を設定します。2つの系には相関がないので、このような全体系の初期条件は、まだ原理的には矛盾なく設定できます。」と書いており、それは正しいが、「矛盾なく設定できる」ことと、そうした初期状態を「準備できる」こととはまったく異なる。

実験で確認できることのみを考えるのが科学であれば、準備できない初期状態について考えるのは似非科学的といえるだろう。科学者は、そんなことに頭を使うべきでなく、そうしたことを考えるのは哲学者のみに限った方がよい。そういうわけで、物理学者には、時間反転星については考えないように私はお勧めしたい。私のように物理学ではなく哲学がしたい方には考えることをお勧めする。

おわりに

エントロピーの増える向きが逆転すると、神経細胞は拡散現象に依存しているので人間は思考できなくなることとかも書こうと思っていたが、科学哲学の話に結局なってしまい話の落ちとしてちょうど良いので、本稿はここで終わりとしたい。

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