第65回 角川短歌賞 予選通過作品『惑星幻灯機』 久保哲也

「自販機の飲み物すべてあったかいする星人」がついにここまで

竜巻をほどいてゆけば中心は高い確率でシチュー鍋

芋があり食べられている世界中のつくろい物のあいまあいまに

こんにちは凍ったバナナで打てるなら凍った羊羹でも打てる釘

雪原にケーキを用意してくれて行けたらいくと答えておいた

アイデアの星雲状のペーストはパンに塗るものではありません

ぺなるてぃ よって今晩夢のなか出てくる毛の生えたゆで卵

これ嫌だ 安いお節の二段目でワライカワセミの声がする

たましいはごとりごとりと音たてて冬の廊下をゆくらしいのだ

諦めにすぎないけれどそれにしても螺旋階段とは豪華だね

青春をおやつにふくめる先生が持ってる血まみれの火搔き棒

有力な説があります ふり向けばどの季節でも桜が散ると

泣きやむと経験則でタンポポがたべられること気づくようです

本当の光を取りに行かせたら来るまでやっている(そのかわり)

なお道の駅については『駅前』が似合わないぶん風と親しい

風の無い夜はもっぱら月を見て泣くお仕事が風鈴にある

鳴るものは風とコラボが出来ますがオカリナだけは貝に似ている

木漏れ陽も記憶が出来るシステムで海に両手を広げています

エンパイアステートビルを建てたから空は海から身を引いたのさ

あの場所が曲がり角とは目印が風だったので気づかなかった

ハツナツは世界のパーツふいに来るサーカステントみたいに丈夫

いやなにも竹藪で咲くことはないって言ってもデカイなヒマワリおまえ

あちこちの花火大会終わったら水際と手を繋げ夏の星

自転する星よ明日も夕焼けを詳しい人に見てもらうのか

もうだめだ地球が全面禁煙になったら体育館の裏で吸う

なにゆえにチンコさわった指先を洗わず海にふれるのですか

こうやって地球を例にとりますが海苔を巻いてもまだ丸いまま

世界樹にワイシャツ干せば一晩で至ってしまう届かない場所

身も蓋も無いことを言う 本当はたぶんプールも泳げばキケン

なんだろう波打ち際でくるぶしが急に生き生きするこの感じ

ブランコに乗れば乗ったでバッタでも少女のような尊さはある

飛行機が疑わず飛ぶ夏空の芝目はああ見えて欲深い

昨日から今日に踏み込む瞬間に全裸で風呂にいることがある

ありふれた夢落ちですが見どころはとてもきれいなおくれ毛の馬鹿

鼓笛隊入りませんかぬいぐるみクマを抱えた脇の甘さで

お隣の犬が戸当たりゴムに似た鼻をぶちゅうと押しつけにくる

青白い馬ってなんだ百メートル走を横切るアイツは誰だ

泣いているステゴザウルス無理もない背中の板にパンチ穴ひとつ

トナカイにちょっと似ている動物が鹿せんべいを食べていますね

ともしびは鳥を導く場合のみ平仮名書きが効果的です

チェス駒にいたような気がする馬の少しはカッコイイ馬の骨

カタツムリしかし色気が足りないな青い林檎に置いてしまおう

コタツから布団を取っただけですがホルスタインに見えなくもない

雪深い想像上の動物が爪によくある星であります

嘘みたいな進化の極みの指先で今日もほじくりだす鼻のクソ

田んぼには理由理屈は抜きにして柱時計を配置しましょう

閉まったらあらゆるドアの開け方をまず利き腕でためしてみます

今、宇宙、宇宙なのです七転び八起きにおける途中経過は

人々がひとりのひとに戻ったら何を言うのかマイクをまわす

おひらきをオープニングと間違えてテラスで花ひらくデッキチェア


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