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夏川椎菜「Ep01」誰得レビュー

Ep01

EP= 「Extended Play」の略
ep= episode

Log lineーPlot pointーEp.01


毎度おなじみ誰得レビューです。本人のインタビューは、まだネット上で読めるものがなかったので、気になった方は声優グランプリや声優アニメディアの最新号にそれぞれグラビアとインタビューが掲載されているのでそちらをどうぞ。


 まずこのEP盤が発売されたのが、9/25。ナンちゃんのはじめてのソロツアーがスタートする日であったことに大きな意味があるのだと思う。ツアータイトルは、「プロットポイント」。物語の転換点を意味するタイトル。しかしその日に発売されたこの「Ep01」。エピソード1という意味にも取れるタイトル。
 つまりここまでは、彼女にとって単なるプロローグでしかなく、プロットポイントで大きく物語を転換させてから、いよいよ第一幕を始める気になった……と取れるような構え。今までわたしは彼女の何を見ていたのだろう、と少し恐怖を感じたし、今回収録されていた5曲にはその恐怖を裏打ちさせるだけの力があるように思う。雑誌のインタビューでは、「サウンドプロデューサーに、夏川は心の中にモンスターを5匹くらい飼っていると言われた」と本人が話していたけど、そのモンスターの力が遺憾なく発揮されていたとおもいます。

1.ワルモノウィル
 今作のリード曲。ショート版のMVが公開されたときは度肝を抜かれました。今までの楽曲でのナンちゃんのMVでは明るさや優しさがあったのに、いきなりそれらを全部捨てて、冷めた目でため息を吐く横顔。衣装もセットもかなりダークな雰囲気でまとまってます。基本つんとしていたり、冷たい目をしたままストーリーが進んで行くんですけど、一瞬だけにやりと笑う口許が見えるカットがあって、いつものナンちゃんのビジュアルよりもきつめな口紅の色がよく映えて強い印象を残してきます……心臓とまるかとおもった。
 歌詞は本人の作詞。今までのラジオとかメディアの発言から、本人も認める優等生タイプだったナンちゃんから溢れた言葉。そう思うと少し心配になるけど、彼女が今回テーマとしたのが「ワルモノはなぜワルモノになるのか?」ということだそうなので、あくまでそういうストーリーを描く中で、モンスターに暴れてもらったのではないかな?と思いたい。でもナンちゃんが本当に仮面を砕くのだとしたら、それもちょっと観てみたい。MVも歌詞も、まだまだ深く潜れる余地があると思うから、もっとどっぷり浸ってみたい曲です。

2.グルグルオブラート
 いつも思うんですけど、ナンちゃんってずっとおとなとこどもの中間地点にいる気がする。もちろん良い意味で。
 これも本人の作詞。音の外れたオルゴールのような、可愛らしいけど危なっしさも感じるサウンドに、タイトルのように、おとな特有のしがらみで、物事を単純な勘定や感情だけで進められないし、わがままを言ったりめんどくささをスルーしたりするほどこどもでもいられないというどっちつかずさを乗せた曲。「大人が 今 ちいさくなったなら だんじょんも最短で 抜け出してしまうかな」。つまりただ単に大人なだけではダメで、大人の力を持ったまま小さくなる必要があることが面白い。

3.HIRAETH
タイトルはウェールズ語で、「望郷」という意味……といっても翻訳するのが難しい語らしく、もう戻ることができない場所を懐かしむ、という意味合いも持つのだそう。
歌詞は安心と安定のワタナベハジメさん。なんとなく、ログラインに収録されていた「キミトグライド」の先にあるもののように思いました。懐かしむのは、あのときに共に目指した場所なのかもしれないし、もしかしたらただ手を握ることができたあの時間なのかもしれない。今はそれらはもう遠くて、帰ることのできない場所。そしてますます遠ざかる。優しさとやわらかさだけで構成されたみたいなサウンドに乗っかって、それこそ雲みたいなふんわりとしたナンちゃんの声が、すごく優しく聴こえる曲です。


4.キタイダイ
「夏川椎菜が作詞したガールズロック」って字面だけでご飯食べれる。疾走感あふれるロックサウンドに、「ブツけ始めりゃいいんだよ」「ブちかましてけばいいんだよ」と強い言葉が並びます。
ぼんやりと過ごす今日や、無意味に湧く不安や感傷、予定調和の退屈をわかってても変えようとしないひとの背中にドロップキックかましてくれる曲です。早くライブで聴いてみたい。タオルを振り回すかんじの曲です。


5.ロジックルーパー
「キタイダイ」とはまた違う応援歌。作詞作曲はHAMA-kgnさん。この人は「ワルモノウィル」の作曲もしてくれている人です。あとログライン収録の「ステテクレバー」。ナンちゃんの声と相性がいい曲ばっかり。Aメロのリズミカルな韻が聴いてて楽しい。
不安とか厄介ごととか大変なことに追われて、盲目になりかけてる目に、あざやかな光を当ててくれる。その光は何気ない幸せだったり、ささやかな夢だったり、大切にしたいものだったりいろんな形をしていて、それはいつも自分のそばにあるんだよって気づかせてくれる曲です。

収録されている曲全部がそれぞれ、別の人が歌ってるって言っても半分信じちゃうくらい、個性が豊かすぎて、その反面全部の曲が、「ああ、ナンちゃんだなぁ」とも思わせてくれるところもあって、それは、ナンちゃん自身のソロでの活動に、しっかり芯が通っているからこそなんだろうなあと強く感じました。作詞したり、短編小説を出したり、「ナンちゃんだからこそ出来る活動」が増えていくのは、一オタクとしてすごく嬉しいし、そこからいろんなものを吸収して、そこから次はどんなことを考えてくれるのかも楽しみだし、今後ますます目が離せないなあ……。
これはEp01。つまりまだ第1章。この先にはどんな物語が待っているのか、やっぱりオタクはのこのことついていくしか選択肢がないのでした。

つづく

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