予測分析が嫌いだった頃

需要予測、故障予測、マクロ経済予測、価格予測等々いわゆる予測分析の仕事をすることがある。
実はビッグデータブームが来たくらいの頃は予測分析が嫌いだった。今でも偶にイラッとする理由は当時と同じだ。実質やることは同じ評価モデル構築、計量化みたいなテーマ、将来予測の文脈でビジネスシミュレーションをするのとかは好きなのだけれど。

嫌いな理由は、その依頼者が自ら問題を解決することを放棄してる姿勢が、他の案件と比べて圧倒的に多く見受けられるから。ビッグデータブームから20年以上経つ最近ですら、である。精度の高い予測さえすれば全てが解決する、もしくは面倒くさい本来の問題解決から逃れられると思っているのだ。きっとChatGPTブームで騒いでる人々の中にも同じ人種が相当数混じってるはず。

例えば需要予測、手元にある販売実績データと関連するオープンデータだけで何とかしろ、みたいな案件があった。でも、その販売実績データは在庫とか工場の状況を踏まえて生産計画を調整して最終的に納品した日にちと数量、実際の需要じゃない。オープンデータも月次~四半期単位のもので、政府統計なんか公開までのタイムラグもある、そもそも予測は週次なのに。
実際の需要を捉えるデータは営業部門が持ってて、彼らからデータを貰えば精度の高い予測モデルはできなくもなかった。というか、彼らのデータを日次~週次で連携するIT基盤とダッシュボードを導入する、いわゆるデータドリブン経営のが、よほど当時の経営層が求めるものだったはず。

でも、そうした面倒をとにかく嫌った顧客側の責任者が、経営者からの業務改善・改革の指示に手っ取り早く対応する策として需要予測を思いついてしまった訳だ。当時の商流や事情で付き合わざるを得なかった、組織の論理というやつ。
他にも財務部門による売上予測とか、例はいくつも挙げられるが、僕が気分悪くなるだけなのでやめておくww
適当なデータを、よくわからないブラックボックスな予測システムに入れて「いやー需要予測がうまくいかないんでー」と経営層への言い訳づくり。そして現場は「あんなの、どうせ当たらない」と予測を一切放棄して、毎回場当たり的に行動する、むしろ状況は悪化するという。。。

ただ実際は上記の例からもわかるように、本当に業務やビジネスの問題を解決しようと思えば、先に考えるべきことがある。なのに、よそで聞いた事例を導入すれば解決するでしょという短絡的な思考が予測分析のニーズには多い。その事例にある企業は本気で問題解決に取り組んでいて、その手段の1つとして予測分析も使っただけなのに。
冒頭で実質的に同じ分析だけど、評価モデル構築、計量化みたいなテーマは好きだといったのは、最近だと人事やESGの文脈で出てくる柳モデルあたりが該当するが、問題解決するための考えがあって、対象を合理的に評価したい、あいまいな対象を数値化・計量化したいというニーズだから。将来予測の文脈でのビジネスシミュレーションも、事業計画の策定プロセスがあった上で、将来シナリオを効率的・効果的に考えたいというニーズだから。

データ利活用は省力化や効率化、高度化などで人を助けるが、人間に100%置き換わるものではない。どんな業務もITもデータ利活用も、人間系によるマネジメントやコントロールは不可欠。換言すればデータ利活用は、それを使いこなせる業務の仕組みや社員がいて初めて有効に機能する。逆に業務の仕組みや社員の育成が十分でない企業にデータ利活用だけ導入しても、良い方向に働かないどころか、時に足枷にすらなる。
優れた社員と予測システムを「上手に活用する」ことで、業務がより効果的・効率的になる。何なら以下の記事くらいのことを考えてこそ、人が存在する価値だろ。

ここからは蛇足な捕捉で、予測分析が「使えない」と言われる原因として主だった2つを。
1つ目の原因は、上述の例でも挙げたように入手できるデータが不正確、それを基に構築される予測モデルや予測値は不正確ということ。その解決策は、何のデータが必要か明確にすること、きちんとデータ収集を実施できる体制の構築と実施、その業務プロセスの洗練。加えて、いわゆる「ビールゲーム」のような組織的不確実性を抑えることも不可欠です。

2つ目の原因は、過去のデータによる傾向を超える要因が発生するとき。
予測分析は過去のデータを基にあくまで傾向を推測するものなので、市場の新たなor大きな変化(景気などのマクロな要因、事件・事故など突発的要因 など)を捉えません。こうした要因に影響された「現実」と過去データに基づく「予測」の間に乖離は当然生じ得るのです。
しかしこれをもって「予測って使えない!」と言うとしたら、そもそも人は何のために存在するでしょう。以前の以下の記事はあくまで選択肢の1つだけど、少なくとも解決策をデータと技術だけに求めてもダメです。

変化のない昔ならともかく、今は変化が激しい時代、事業環境に変化を与える要因自体が、社内から社外まで膨大に増えている。ある要因がちょっと変わっただけで、思いもしない変化を及ぼすこともある。予測値を導き出した要因・前提を把握した上で、その予測値が実現されるように、社内のリソースなどコントロール可能な要因であればコントロールし、コントロールが難しい要因であればモニタリングし、必要に応じて予測値や予測ロジックを把握し、、、なんてことを運用で考える必要もあったりする。
それなのに「何かよくわからないけど、需要予測システムにデータ放り込んだら良い値を出してくれるんだよねぇー」なんて受身な考えだけで上手くいく筈がないのだ。

どちらの原因による「使えなさ」にせよ、企業の担当者、まずはきちんと事象を捉えられる・考えられることが必須なのは変わらないし、そうしたことを放棄してただ予測やらAIやらに頼ったって、何もうまくいく訳ないんすよねー

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