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#15 育成って難しいねという話

同じ勤め先に20年も勤務していると、さすがに自分の仕事だけやっておけばいいとはならない。部下が配属され、相談を受けたりアドバイスを送ったりすることが増えてきた。さらには新人の教育も任されるようになるといよいよ自分の仕事は二の次で新人の面倒を見ることが中心になる。
生まれ年が5年違えば考え方も仕事の進め方もかなり変わる。20年ともなればその差は大きい。日々ジェネレーションギャップにおののきながら今日も仕事に向かう。
ただ、今回の育成は会社勤めの話と少し違う。

NPBのドラフトが終わって1週間以上が経ち、本来なら日本シリーズも終わろうかという時期になった。なんと今年はまだペナントレースをやっていて、これからパリーグのクライマックスシリーズと日本シリーズが行われる。野球ファンにとっては冬枯れの期間が短くなるのでありがたい。
とはいえ、チームは来年も続くので、来年の陣容をどうするか決めなければならない。ドラフトで選手を迎え入れた分、選手を送り出す必要がある。ベテラン選手が引退する「自然減」だけでは新加入の選手の枠を空けられないので、どうしても意図的な送り出し、つまり「人工減」を作らねばならない。
今週月曜日からNPB各球団が来季の戦力構想から外れた選手に通告を行い始めた。引退のニュースとともに、次々とあの選手が、この選手が戦力外通告を受けたと報道されるようになった。社会人野球で他を圧倒するような力を発揮しながら、プロではほとんど活躍できずに「戦力外」のレッテルを貼られるのを見ると、プロは厳しいなと感じるとともに、あの時の輝きは幻だったのかなとも思わされる。
いずれにしても、プロ生活続行にせよ次のステップを探すにせよ、後悔のないようにしてもらいたいし、数年後「元◯◯球団の◯◯容疑者、逮捕!」なんてことで記憶を呼び起こすことだけは勘弁願いたいところだ。

さて、戦力外通告を受けた選手であってもそのまま所属チームを失うケースと、そうでないケースがある。後者は、戦力外となった直後に育成選手契約を結び直し、選手としての肩書きが変わるのだ。
ご存知ない方のために説明すると、NPBの選手権試合(一軍のペナントレース)に出場するためには、球団と支配下選手契約を結ぶ必要がある。現在NPBチームは70人を上限として選手と契約を結んでいる。一方で、一軍の試合には出られないが二軍の試合限定で出場できる条件付きの契約が育成選手契約だ。
育成選手の待遇は概ね悪い。最低保障年俸額は支配下選手なら440万円だが、育成選手は240万円だ。支配下選手で一軍昇格すれば、一軍の最低保障額が1,600万円なので、年俸との差額を日割りしたボーナスが出ることもあるが、育成選手だと一軍に上がることができないのでそのボーナスももらえない。
背番号も支配下選手は1桁か2桁だが育成選手は100番以上の3桁とされ、一目でわかるようになっている。
これだけの差を設けて、この待遇を良くしたいなら頑張って支配下選手契約を勝ち取れ、ということだ。相撲取りでも関取になるかならないかでは雲泥の差があるように、待遇で差をつけて奮起を促すのは原始的かつ直接的な方法といえる。

で、高校卒業したての選手のように、まだまだプロとしては未熟だが才能の片鱗はあるという原石はしっかり育てて一人前にするため育成するという題目がある。また、諸国を渡り歩きながらプレーする中米系の選手が育成契約となることもある。このあたりまでは、NPBの一軍でプレーできるかどうか見極めるために育成契約を結ぶという大義がある。
しかしながら、いつも一軍の試合に出ていた選手がケガや不調で戦列を離れ、いつの間にか育成契約になるケースは、以前からどことなく違和感を覚えている。かつてはレギュラーとして試合に出ていた選手なのに成績が振るわないことから一軍の試合に出られない待遇の契約をしているのは、少なくとも「育成」の名目からは外れていまいか。ケガをしてリハビリのために時間がかかるので、その間契約を変えるというのも「育成」ではなかろう。

育成契約から支配下契約を勝ち取った選手は多く、その中にはタイトルを獲得した選手もいる。他を圧倒する精神力と技術とパワーには敬服するしかない。
その一方で、支配下契約から育成契約になり、再度支配下契約になった選手もいる。しかし、そのような選手はそもそも育成契約にしていたこと自体疑問符がつくケースがほとんどで、育成契約の間にしっかりと技術や体力を鍛え直した結果支配下契約にこぎつけたというケースは聞いたことがない。

今後育成の場として二軍(や三軍)を機能させるためにも、一度支配下契約したことがある選手を育成契約に切り替えるのを禁止したほうが良いのではないか。力が衰えて支配下契約ができない選手には残念ながらNPBから退場してもらう。それこそが国内の野球リーグ最高峰としてNPBがあり続けるために必要だろう。また、ケガのために療養が必要とする場合は、医者の診断を条件に、育成契約とは別の契約形態を用意すれば良い。
2005年に導入された育成契約制度が目的どおりに運用されていれば言うことがないのだが、近年本来の目的から外れた使い方が多いように見える。そのために二軍で本当に育成が必要な選手の出番が損なわれるようであれば本末転倒だ。育成契約から支配下契約へは一方通行の片道切符に。そうすることで選手の覚悟も決まろうというものだ。

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