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COVID-19と戦う仲間に情報共有〜DP号対応から

 全国各地でPCR陽性の方が散発し、すでに治療にあたられているところ、数例が出現してこれからの流行に備えているところ、まだ未発生のところ、多々あると思います。
 以下の内容は、ダイヤモンドプリンセス号に関わる医療支援活動の中で個人的に経験したことを共有するために記します。あくまで個人的な体験と感想です。すでに中国から多数の論文が出されているところですが、ダイヤモンドプリンセス号は、多人数の集団に対して、症状の有無に関わらず全例PCRを行った稀有な情報であると考え、一個人の経験ではありますが、生の声で伝えることにも意味があると考え、発信します。


個人的な活動
(1)ダイヤモンドプリンセス号の入り口において、2月14日から17日までの間、PCR陽性の方の搬送のサポートを行いました。ちょうど陽性確定症例が増えたピークの頃になります。予定搬送の方については、誰をどの搬送手段でどの病院に搬送するかは事前に調整されていて、そのマッチングを確実に行うサポートです。加えて症状が悪化した人の救急搬送についても調整しました。ミーティング等に参加するため、船内本部にはこの間毎日赴きました。
(2)2月18日以降は、藤田医科大学岡崎医療センター建物(未開院)において、多数の軽症・無症候者・同行者を受け入れるにあたり、その本部機能をサポートしました。この施設はまだ病院開設準備中であるため、基本的に医療処置が不要と考えられる軽症・無症候の方の短期間の受け入れという前提でした。


公開されている事実
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_09997.html
3,711名の乗客・乗員全員にPCR検査を施行し、696名(18.8%)が陽性、うち410名(58.9%)が無症状とされています。(報道より、外国籍の方で帰国後に陽性となった方も数名いますが、いずれも検査時点で重篤な症状はなかったようです。)3月8日現在で、人工呼吸管理または集中治療室に入院している症例が31名(陽性者中4.5%)、死亡者が7名(陽性者中1.0%)となっています。

乗客全員に対する検疫は2月3日から、乗客の船室隔離は乗客のCOVID-19感染が確認された2月5日から開始されました。乗客の感染確認者のうち、症状発症のピークは2月7日で、その後2月13日までなだらかに続いています。
https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2484-idsc/9422-covid-dp-2.html
これらの方々は船室隔離開始前に感染していたことが予想されます。ただし無症候の方も多くおられ、下船前の確認のための検体採取件数が増えたこともあり、感染確定のピークは2月16日-18日になっています。これらの方々は無症候であるために感染成立の時期が特定できません。


現時点での推奨(2020.3.6時点)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/newpage_00011.html
(1)軽い風邪症状(のどの痛みだけ、咳だけ、発熱だけなど)でも外出を控えること
(2)規模の大小に関わらず、風通しの悪い空間で人と人が至近距離で会話する場所やイベントにできるだけ行かないこと(例えば、ライブハウス、カラオケボックス、クラブ、立食パーティー、自宅での大人数での飲み会など


驚くほど無症候・軽症が多く、症状が多彩
全数検査をすると、驚くほど無症状でPCR陽性の人がいます。中には検査結果が間違いだ、と言って搬送を拒む人がいたくらいです。実のところは「無症状」と分類されている人の中にも軽度の症状(軽い咳、軽度の咽頭痛)がある人がたくさん含まれています。ただ日常生活の中でその症状だけで医療機関を受診する人は半分にも満たないくらいの軽微な症状だと思います。あの狭い船内で、短時間で、多数の「疑い例」である人を対象に、直接接触時間を極力短くしながら、しかも多数の外国籍の方を含め(日本語も英語も全く使えない人も多数)、有症状か無症状かを決めるには、発熱と他覚的に短時間で確認できる明らかな症状(歩けない、激しい咳嗽など)に頼るしかありません。
軽症の方の症状も、有症状に分類された方の初期症状も、実に多彩です。咳が全く出ない方、消化器症状がメインの方(気分不良、軟便などを含む)もおられます。咽頭痛を自覚する人が多いように思いますが、咽頭痛は自己申告であるため咽頭痛でひっかけるのは難しいかもしれません。水様下痢はいなかったように思います。


軽症・無症候からの増悪は1割くらいの印象
上記のように岡崎への大量の搬送において、まだ医療処置ができる施設ではないため、前提として医療処置が不要と考えられる無症候の人を選択して搬送してもらいました。発熱がないことはもちろんのこと、SpO2が97%以上、という条件もお願いしました。船内の状況を考えるとSpO2をチェックすることの大変さは理解していましたが、酸素投与を含めた医療処置ができない施設、ということで搬送前にチェックしていただきました。この条件で搬送してもらっても、6時間の搬送中に症状が出現し、医療処置が必要との判断で医療機関に搬送した症例が1割以上います。その1割の方も見た目だけで重症化した、とわかる人はほんの一部で、見た目のsick感に乏しい人がほとんどで、呼吸数すらあてになりませんでした。「咳が多い」「何となくおかしい」で事前予測できた人もいますが、第一印象だけでは多くは引っ掛けられず、多くの方は到着時の体温、SpO2測定で鑑別しました。
拡大期において、各医療機関で症状によってCOVID-19を鑑別するのはほぼ不可能でしょう。疫学的リンクがたどれない症例が出てきていることを考えると接触歴だけでも鑑別はしきれません。疫学的リンクがたどれている人も、健康観察対象者から見つかった症例ばかりでなく、後付けでリンクが分かった人も多数います。


重症化リスク
中国から病像についての論文が出ていますが、国内で聞く情報からも、無症候・軽症のPCR陽性の方でも、胸部CTを撮像するとおおよそ4人に3人は肺炎像があるということがわかっています。多くは両側に肺炎像を認めます。そのうち高熱やSpO2低下に至る人が一部いるということですね。岡崎で上記の無症候から搬送対象になった方の何人かは、もともと無症状だったものの、搬送の6時間の間に軽度の胸痛が出現しています。CT像から考えるに肺炎の進展によって胸膜痛が出てくるのかもしれません。
無症状・軽症から重症化するときは、スピードが早いです。上記のように搬送の6時間という短時間のうちに有症状になる方が1割おられ、その中のさらに1〜2割は24時間以内に挿管が考慮されるような状態まで急激に悪化します。初期にはほぼ無症状であるため、気づかないうちに病変が進行し、有症状になってから一気に進行するように見えるのかもしれません。PCR陽性の軽症者を診るときにはこの点に留意してください。


他の感染症との合併
すでに報道にあるように、肺炎球菌抗原陽性で肺炎治療中の方が、後からCOVID-19感染とわかった症例があります。一般にウイルスによる上気道感染から細菌性肺炎を合併することはありますのでこの点は日常的な注意と同じですが、それ以上に驚いたのは、A型インフルエンザの迅速検査が陽性で、同時にCOVID-19も陽性だった人がいることです。A型インフルエンザ感染で説明がつかないような肺炎像があるときには注意が必要かもしれません。


救援者の感染は非常に少ない
残念ながら救援者からも感染者が出ています。しかしあれだけ不特定多数の救援者が船内に入りながら(活動中一貫して船内活動をしたのはごく一部で、短期間:短い人では半日:活動する人が多数)、感染した人数が少数であることを考えると、適切な感染防護策を施せば医療者への感染は防護できるはずです。強調すべきは接触予防策、適切な防護具の着脱(特にマスクの扱い)、手指衛生ではないでしょうか。
詳しくはかけませんが、狭い空間で、長時間、病原体保有者と接する状況になれば感染のリスクは上がるものと思います。これは専門家の意見としてすでに公表されているものですね。


無症候性病原体保有者も感染力があることがわかっており、発症直後がもっともウイルス量が多い、との中国からの報告もありました。これからの拡大期・蔓延期において医療機関での対応も全国で準備する必要があると思います。中国からは医療者の感染の大多数は軽症患者から、と報告されています。個人的な上記の経験からは、


・症状や病歴だけでは鑑別はできず、診察スペースを分けるだけでは対応はできないこと、狭い空間に長時間同席すると感染のリスクがある、ということから無症候性病原体保有者がいるということを前提に、外来の待ち時間・待合スペースについて換気・着座間隔などに工夫をする必要がある。

・COVID-19感染の疑いであるかどうかに関わらず、愚直に感染防護と接触予防策を行うことで、医療者の感染リスクはかなり下げられる。
と思います。


全国の仲間の力で、拡大期・蔓延期を安全に乗り切りましょう。
                            山畑 佳篤


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