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日本の新型コロナウイルス対応に活かせること〜ダイヤモンド・プリンセス号への対応から〜

ダイヤモンド・プリンセス号で起こったことは単なる特別な事件で終わらせる話ではありません。単なる個人の体験談でも終わりません。ここで得られたことは、これからの日本の新型コロナウイルス感染症への対応に行かせることも数多くあります。

キーワードは「うつらない、うつさない、うつさせない」

 ダイヤモンド・プリンセス号の検疫では、閉鎖された空間にいる全ての人に対して新型コロナウイルスのPCR検査が行われました。この結果は稀有なデータです。世界中のどこにもこんなデータはありません。その結果からわかっている事実は、感染が広がっている閉鎖空間にいる集団(=事前確率が高い集団)では検査の陽性率が18.8%で、検査陽性者のうち検査段階で無症状(または発熱を除く軽微な症状)であった人は58.9%、すなわち5人に3人は無症候であったということです(表1)(1)。検査の陽性率はその検査の感度で変わってきますし、陽性と出た人が真の陽性かどうかは特異度で変わってきます。新型コロナウイルスに対するPCR検査は検体の採り方でも変わってきますが、感度は50〜70%程度(感染しているのに陰性に出る人が30〜50%いる)で特異度は95%以上(感染していないのに陽性に出る人は5%以下)と言われています(2)。偽陰性が起こりうるということから真の感染率は不明ですが、検査陽性の人の6割が無症候(または発熱を除く軽微な症状)であったという事実は重いと思います。

 この経験からは、<発熱外来>設置では対応は不十分だということがわかります。無症候の感染者が多数いる時点で、施設入り口で症状によってトリアージを行っても、院内に感染者が入ってくることは阻止できません。もちろん有症状かつ病歴でよりリスクが高いグループを層別化することによって院内に入る新型コロナウイルス感染者の人数を減らす効果はあると思います。しかしそれだけで安心してしまうと、かえって院内感染を増やす結果にもなりかねません。無症候での新型コロナウイルス感染者は院内に入ってきているとの前提で、医療者は推奨に従って自らの身を守る手だてをとる〜特にエアロゾルが発生するような手技を行うときには確実な感染防護具の脱着を行う〜こと、そして予定再診も含めた全ての来院患者の院内滞留時間を短くすると同時に待合スペースは距離をおいて座ることができるように配置し、時間的空間的に接触を避けるように配慮すること、などの対策を現時点で始める必要があると思います。

 受診者サイドでも、軽度の症状では病院には行かずまずは相談センターに電話する、薬の継続処方だけであれば電話診療で処方箋発行してもらう、などの協力が必要です。不用意に病院に行くことによって、自らが感染る・自らが感染す、ということが起こり得ます。


軽症には隔離入院ではなく、隔離施設で健康観察を

 隔離のために岡崎施設に搬送された無症候(または発熱を除く軽微な症状)96名のうち、13名(13.5%)は24時間以内に酸素投与等の医療処置が必要となり医療施設に入院しています。その中には人工呼吸器装着などの集中治療が検討されるくらいの状態の人もいました。逆に入所後24時間以降に医療機関に搬送された症例は1人に留まっています。現在の陰性確認基準(発熱や咳嗽などの症状がなくなってからPCR検査を行う。陰性であれば12時間後に再度PCR検査を行う。2回連続で陰性であれば隔離施設から退所。ただしその後ホテルや自宅にとどまって健康観察を行う)を満たすまでに要した期間は、初回に陽性診断されたPCR検査日から中央値で9日という短報が出されています。

 感染爆発が起こった時に、医療機関がパンクして機能不全を起こすことを防ぐため、軽症者は自宅で自主隔離、増悪時に来院を、という意見があります。病院の負担を減らすためには必要な対応ではあると思います。しかし無症候(または発熱を除く軽微な症状)から酸素投与等の医療処置が必要になる状態に変化するのに6時間〜24時間という早さであることを考えると、自宅では病院搬送のタイミングが遅れるかもしれません。ホテルを借り上げて隔離施設とし、そこに医療者(看護師もしくは医師)と搬送手段を常駐させて、状態変化を密に観察する、というのは一つの解決法だと思います。また、岡崎施設の経験からは、逆に24時間程度状態を観察して増悪がなければその後に増悪している症例は少ないので、その時点から自宅隔離に入る、という解決法も考えられます。実際に、愛知県では具体的にそのような対応の準備を始めた、と報道にもありました。


ピーク時には医療資源の多くが新型コロナウイルス感染症に向けられる

 感染爆発のピーク時には医療対応の限界を超えることが予想されており、通常診療をストップせざるを得ず、診療科にかかわらず全ての医師が新型コロナウイルス 感染症患者とその合併症に向かわざるを得なくなるとの覚悟が必要です。予定手術は全て中止になるとともに、重症対応の病床や医療機器が不足した場合は、手術室が臨時の集中治療室になります。そのピークを少しでも下げるためには、全ての人の一人一人の行動が重要になります。医療対応の限界を少しでも上げるためには、全ての医療従事者、全ての関係する人で準備を整える必要があります。

 患者の増加スピードとピークを抑制するという綱渡り状態を維持する努力を続けながら、来るべきピーク時において医療体制を維持することを目指して、覚悟をもって準備を続けましょう!

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