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ドラゴン・スレイヤーズ! 第三話

ナレーション【竜討士の里―】

竜討士の全景を描写。石材で作られたドーム状の家が連なり屋根には竜の角を模した装飾がされている。井戸端会議に花を咲かせ、十代半ばの少女が小さい弟妹の面倒を見ながら洗濯物に勤しむ。

ナレーション【人類の生存圏である"帝国"各所に点在し、竜討士の部隊が常駐して帝国内での竜災発生時には帝国軍の要請によって出動する】

練兵場では竜討士見習いの少年少女たちが竜討士を引退した隻腕で髭面の中年剣士の教官ガーズの立ち合いの元の木剣での模擬試合を行う。

ガーズ「重心の配分を考えろ!それじゃ剣に使われてる!」
見習い剣士A「押忍!」

ガーズの厳しい声が飛ぶと見習い剣士は剣を構え直す。

グレン「おーおー!やってるやってる」

見習い時代を思い出してグレンは懐かしそうな顔を浮かべると見習い剣士たちの元へと足を進める。

グレン「おぅ!精が出るな」
ガーズ「グレン”隊長”!今日はめでたい日だな!」

幼い頃から長じて剣の才能を見せたグレンのことは昔から目を掛けていたグレンの出世を喜び笑み返す。

グレン「なんだ、もう噂になっているのか」
ガーズ「そりゃ今一番勢いのある若手だからな。注目の的さ」

若き勇者であるグレンの登場に稽古に集中していた見習い剣士たちの視線が集まりざわめきが広がっていく。

見習い剣士たち「”頸狩りのグレン”だ……!」「あの眼帯の下に奥の手があるってきいたけど……」
「隊長クラスって三十歳前後くらいが普通だよね。二十代前半とかやっぱり早いな」
「すげー筋肉。どんな鍛え方してるんだ」「よく見ると体中傷だらけ……あれが歴戦の戦士の証か」
「上位竜の頸まで狙ってるって噂だぞ」

最早、稽古どころではなくなってガーズは苦笑いを浮かべて肩をすくめる。

ガーズ「やれやれ、お前が来ると稽古にならなくなるな」
グレン「いやーすまん。邪魔したようだ」

稽古に水を差す気はなかったグレンは早々とその場を後にしようとした時、見習い剣士の中から意を決した見習い剣士Aが前に出る。

見習い剣士A「グレン隊長!オレに稽古をつけてください!」

見習い剣士Aの大胆な行動に見習い剣士たちの間でどよめきが広がる。

見習い剣士たち「おまえ、いきなり失礼だぞ!」「そうだ!グレン隊長はいちいち見習い剣士に構っていられないんだ!」
「隊長相手にみ、身の程って言うのがあるだろ!」

周囲は口々に見習い剣士Aを非難するが内心では皆、グレンに稽古をつけてもらいたいと考えているので声音には嫉妬の色が混じる。

グレン「やれやれ、内定しているとはいえまだ長老(ジジイ)どもに正式に任命された訳じゃねぇからまだ班長なんだけどなぁ」

満更でもなさそうな顔で出しゃばった見習い剣士Aに掴みかかる勢いの見習い剣士Bから稽古用の木剣をさっと取り上げてから”借りるぞ”と声を掛け自分の足元を中心に直径1mの円を描き片腕で剣を構え、きょとんとした顔の見習い剣士Aに切っ先を向ける。

グレン「オレは右腕一本しか使わない。この円の外に一歩でも出たり、剣の先がオレの身体に触れられたらおまえの一本だ」
見習い剣士A「えっ!じゃあ……!」

稽古を本当につけてもらえる驚きでぱくぱくと口を開閉させる様にグレンは口角を上げる。

グレン「任命式でいきなり重役出勤じゃ大物感ですぎるから、3本までだ。好きに攻めてみろ」
見習い剣士A「押忍!よろしくお願いします!!!」

表情を引き締めて剣を構えると気合と共にグレンの死角となる左側から剣を打ち込む。

グレン「おっ!いきなり弱点ついてくるか!いいね!」

自分への純粋な憧れの視線とは裏腹に稽古となれば遠慮の無い見習い剣士Aに意気は良しと自分も真剣に応える。

グレン「ほいっ!一本!」

死角からの攻撃にもか最小限の動きで躱して見習い剣士Aの木剣を絡めとって弾き飛ばす。

見習い剣士「次!やぁ!」

今度はフェイントを仕掛けようとするも重心が崩れた見習い剣士Aの背中に目いっぱい加減して木剣を振り下ろす。

どがっ!

見習い剣士A「ぐぁっ!」
グレン「おっと、すまん!竜相手ばっかだから加減をしくった」

肺が潰れるほどの衝撃に地面に倒れ込んだものの辛うじて受け身は取れていて剣を杖がわりに立ち上がり再び剣を構える。

見習い剣士「まだまだ!あと一本!」

最初は無謀なことをという目を向けていた仲間の見習い剣士たちもAの予想以上の粘り強さに息を飲む。

グレン「よっしょこい!これで最後だ」
見習い剣士「やぁぁぁっ!」

中段斬りと見せかけてグレンの原生された移動範囲につけこんだ下段斬りをなんなく剣で受け止め弾き返されると重心が崩れて尻もちをつき喉元に剣の切っ先を突きつける。

グレン「一本。最後まで破れかぶれにならなかったのはいいぜ。ガーズのおっちゃんの言う通り重心の配分をもっと考えな」
見習い剣士A「お、押忍!ありがとうございます」
グレン「そういえばおまえ、名前は?」

グレンに自分の名を聞かれて感動で目を潤ませると自分の名を告げる。

ライエル「ライエルです!」
グレン「そうかライエル。一緒に戦えることを祈ってるぜ」
ライエル「押忍!精進します!!」

長居は無用とその場を後にするグレンにライエルは”礼”をして見送る。

グレン「隊長隊長言われてこそばゆかったな。さぁて、本当に”隊長”になりにいくとしますか」

グレンは村の中央になる一際大きな建物―里の議会場に向かう。

ナレーション【戦果報告会議―】

【三カ月に一度里の最高決定機関”長老衆”が一堂に会して行われる】

中央の円卓に長老衆が座しその左右に擂鉢状に議席が何重にも並ぶ。

【竜との戦闘による戦果や損失などを報告し、情報を共有し予算配分などが決定する】

竜の討伐数や消費された武器、帝国軍との関係性、新しい武器の開発状況などが報告されていく。

【また、戦功著しいモノへの褒章の授与や昇進、配置の転換、戦死者が発表される】

議席の最上段。もっとも議席を俯瞰できる場所に陣取ったグレンと班員たちが固まっている。

グレン「やっぱ隊長ともなるとただ剣ぶん回すだけじゃ、ダメだよな」

グレンは腕組をして今までは聞き流していた予算の配分などの議論にも真剣に耳を傾ける。

レナ「ねぇねぇねぇ!班長の隊長昇進発表まであと少しだよ!」

興奮すると無意識に声が高くなるレナを隣の席のドラスが諫める。

ドラス「こらこら、あまり騒ぐな。こちらこそこれから班長になるのだからもっと落ち着け!」
ボルタス「ドラス……お前の方が声が大きいぞ」

平の竜討士で格式ばった会議など初めての3人の様子に二席ほど離れた位置に座っていた年は十代後半ほどの深紫のローブを身に
纏った黒髪の美少女が小馬鹿にしたような鼻を鳴らす。

ローブの美少女「みっともないわね」
ローブの美少女「今、この里で一番勢いがある班だって聞いたから興味あったけど、野暮ったいことこの上ない」

冷笑すら様になる美貌にグレン班の注目が集まる。小馬鹿にした様な態度と晴れの席に水を差されたことでカチンときたレナがロ
ーブの美少女に詰め寄る。

レナ「ちょっとちょっと何?何なの?その言い方」
ローブの美少女「あぁ、気に障った?見た感想言っただけだけど」
レナ「ひょっとして喧嘩売ってる?」
ローブの美少女「買ってもらっても構わないけど、ここではやめてくれる?純粋な腕っぷしじゃあんたにかなわないし
レナ「ふーん、ここじゃなきゃ。問題ないってわけねー?」

バチバチと火花を散らす二人の間にグレンが割って入る。

グレン「ルーン家の令嬢が大人気ないんじゃない?」
レナ「ル、ルーン家ってあの竜魔術の名門の……!」

世事に疎いレナですらすぐに思い浮かぶほどの竜魔術の名門一族の名にはっと口元を覆う。高位竜が行使する竜魔術を人類の
英知で再現した超常の力の使い手の中でもエリートであることが彼女の自身の源であると班員たちは納得する。

ローザ「大人気ないのはちょっと煽られただけで突っかかってくるそっちの女だけど……まぁ、名門ルーン家の次女。ローザ・ルーンのふるまいとしてはエレガントじゃなかったわね」

会議進行役「グレン班班長グレン、以下その班員。前へ」

ドラス「呼ばれたぞ!レナ、諍いは後だ」
ボルタス「いよいよか……!」
レナ「ふん、あとで覚えといてねー」
ローザ「わたし些末なことはすぐ忘れるから、どうかしらね」

憎まれ口を言い合ってべっと舌を出したレナは班員の後ろに続く。

長老「グレン班班長グレン。本日付けで隊長へと昇格する」
グレン「隊長の任、拝命いたします。己の刃に賭けて使命を全うします」

かつては傑出した竜討士だった厳めしい表情の長老に誓いの言葉と剣を構えるような竜討士の敬礼で応える。

長老「ドラス、ボルタス、レナの3名は本日付けで班長へと昇格する」

3人は敬礼を持って拝命の挨拶と敬礼を持って長老の期待に応える気概を見せる。

長老「最後に一級竜魔術師ローザ・ルーン」

長老の呼びかけでローザは自信に満ちた表情で階段をゆったりと降りてくる。

レナ「竜魔術……一級!あの年で……!」

数十年の研鑚の末に認定される一級竜魔術士の称号を自分よりも年下であろう少女が得ていることに驚きを隠せない。

長老「ローザ・ルーン。本日付けでグレン隊に配属とする」

長老からの予想外の言葉に班員一同は驚きを隠せない。

グレン(優秀な竜魔術士は対高位竜戦で不可欠……とはいったものの、とんだ曲者がきたもんだ)
ローザ「謹んで拝命いたします。己の刃に賭けて使命を全うします」

ローザの自信に満ちた宣誓が議会上に響き渡った。

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