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SIAF2020 Matrix

※本記事はMedium掲載のRobin Jungersによる記事「Building an online exhibition space」を翻訳したものです。
※プロジェクト詳細に関しては、Qosmo公式サイトをご覧ください。

OVERVIEW

札幌国際芸術祭(略称:SIAF)は、3年に一度札幌で開催される芸術の祭典です。現代アートやメディアアートの作品を紹介するとともに、札幌の魅力を国内外に発信しています。3回目となるSIAF2020は残念ながら新型コロナウイルス感染拡大の影響を考慮し開催が中止されました。
そこで、展示として実現されることのなかった魅力的な様々な企画を楽しんでもらうためのオンラインコンテンツ”SIAF2020 Matrix”というWebサイトが企画されました。
このWebサイトは、鑑賞者が選んだキーワードを元に、機械学習によって独自の鑑賞経路が生成され、経路にしたがって各作品を鑑賞できるサイトです。鑑賞者の興味関心にあわせて変化するオンラインでの展示空間になっています。

今回は、SIAF2020の企画ディレクターであるアグニエシュカ・クビツカ=ジェドシェツカさん、SIAF2020実行委員会事務局の皆様と共同で本サイトの企画・制作を担当しました。

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2020年〜2021年にかけて、パンデミックが私たちの生活に浸透し、様々な規制がかかり、リアルなイベントに人が集まり、空間体験を人と共有することが難しくなってきました。
このような状況の中で、札幌国際芸術祭(SIAF2020)チームからリアルイベントの代わりにオンラインエキシビションを新しくデザインし、実現することはできないかというアイデアを持ちかけられました。このサイトは、一般的な作品サイトとは異なり、単に作品を展示するだけではなく、展示空間とは何か、その中でどのようにオンライン体験をすることができるのか、その意味を問い直すことを目的としています。

Online spaces

最近ではオンライン空間の多くは2つのカテゴリーのいずれかに属しています。
1つは、Webストア、ソーシャルネットワーク、そして情報を提供するブログやメディアプラットフォームなど。それらの目的は明確でわかりやすいナビゲーションを提供することであり、検索ボックスやフィルターを通してコンテンツは見つけやすく、タイムラインは一次元のブラウジングが好ましいと考えられます。投稿は主に公開日を基準に投稿管理されており、カテゴリーごとに配置される場合もあります。
​​ 例えばソーシャルネットワークは誰もが気軽に閲覧できる良い中間地点を作り出してい ますが、そのデザインや使い方はストーリーをキュレーションする機能がないため、キュレーションされたコンテンツには不向きです。アカウントプロフィールや投稿ボタンの配置などは、うまく統合されたパターン(使い慣れたもの)を利用していますが、ある意味では、むき出しの道具のように、抽象的なままです。
もう1つは、『マインクラフト』や『どうぶつの森』のようなオンラインゲームです。仮想世界が体験の中心にあり、オンライン空間を介してユーザー同士がコミュニケーションをとることができます。しかしながら、一部では自己表現を楽しめるものの、ほとんどの部分が、遊び心のある環境の制限の中です。その結果、コンテンツを共有したり提示したりすることがより複雑になっています。
これらの考察は、特にソーシャルネットワークやリアルタイムコミュニケーションの領域では、快適なWebライフを過ごすための新しい方法を模索する中で、最近ますます議論されるようになってきています。デザイナーのジョン・パーマーは、このことをエッセイで論じています : https://darkblueheaven.com/spatialsoftware/
ここで私たちが注目したのは、この2つのモデルが交差すること、つまり、コンピュータのモニターというメディアとシンプルでうまく統合されたインターフェースでありながらも、自然に閲覧できるようなオンライン空間です。

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(Permaculture Network and the Museum Insel Hombroich both display a game-like layout)

From Sapporo to the computer

SIAF2020 Matrixの展示では、コンセプトや意図はもちろんのこと、地理的な位置やレイアウトも含めて、オリジナルの展示の文脈の中で生きた体験を構築し、デジタルでイベントを蘇らせることが重要なポイントの一つでした。
そのため、トップページに最初に表示されるレイアウトは、各作品の実際の座標を反映したものとし、札幌市内を中心に配置しました。
今回のオンライン空間ではこのような地理的要素を背景にしてWebページが開き、徐々に進化していきます。この新しいフィールドに適応しようとしているかのように、それらの作品を表象するオブジェクトは物理演算に従い、画面を埋め尽くすようにダイナミックに再編成され、ユーザーの操作にあわせてインタラクティブに反応するオブジェクトに変化します。

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再編成された新しいレイアウトは、ただのデザイン、見た目の変化ということだけではありません。鑑賞者がキーワードを選択して、展覧会を進む中で、作品同士を結ぶパスによって形成された角度が、コーナーや廊下のように画面上に表示されます。ここでの目標は、ナビゲーション機能を低下させることなく、空間的なコンテキストを鑑賞者に思い起こさせることでした。

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A shared gallery

開催が中止されたSIAF2020をオンライン上に作り出しているこのWebサイトは、ギャラリーとしての役割を果たしています。この新しいメディアは様々な点で他メディアとは全く異なるものですが、性質上、この2つは多くの共通点があります。それらはまるで人と人の出会う交差点のように、人が集中する場でありながらも、一般に開放されています。
私たちは、実際に展覧会に訪れたかのように、鑑賞者が両者の間に距離感を感じられるような表現を加えました。そのために、作品を見ている人の情報はリアルタイムでサーバーに送信され、他の人へも配信されるようになっています。メインの展示レイアウトを見ていると、自分の周りにいる鑑賞者が画面上に現れ、それによって、他の鑑賞者の存在に気が付きます。

Generating guided visits

アルゴリズムとしては、Qosmoで使用することの多い機械学習を取り入れました。これは技術的に奇をてらったものを導入したかったわけでも、技術的な挑戦をしたかったのでもなく、この問題に対する自然な解として効果的な方法だったためです。
実際、このアプローチはこのプロジェクトの構造に容易にフィットしました。今回のアイディアはストーリーの生成システムを構築することでした。各アートワークの利用可能なデータを使用し、私達は、そのアートワークの意味を反映した もの を鑑賞者に提案したいと考えました。ここでは、私達は、それぞれのためにしっかりと考えられ、書かれたコンセプトに注目しました。自然言語処理のモデルにそれらをかけると、これらのテキストから特徴を抽出することができます。これらの特徴は、それだけではあまり意味がありませんが、それらを一緒にした時に役立ち、2つの概念の近さをその特徴から評価することができます。

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その結果、連続的でブラウジングできる意味の仮想空間ができあがります。この空間は、デフォルト状態では、多次元で構成されていますが、今回は、パフォーマンス上の問題から、2次元に縮小しています。この2つの次元は、基本的に地図と似ており、直線的な距離を計算できます。
これがWebサイトのナビゲーションが行われている場所です。任意のランダムなプロジェクトから始まり、ユーザーはその空間上、最もそのプロジェクトに近いものへ誘導されていきます。このように、現代的なデータ処理手法を用いて、従来の恣意的なウェブナビゲーションはとらずに、新しい自然な情報の見せ方を追求しました。

Conclusion

概念的に異なるものの、しかし関連性のある3つの空間がここではそれぞれお互いにミラーリングしています。展覧会のレイアウトのある地理的な空間、鑑賞者が自由に動き回り、展覧会の閲覧を進める共有の仮想空間、そしてナビゲーションが集約されている潜在空間です。
“空間”はこのプロジェクトの重要な要素です。従来のオンライン空間から進化し、それぞれの空間の使い方を適応させる必要がありました。しかし、最終的には、Webサイトをデザインするということは、新しい視点からナビゲーションを考えられる空間設計の方法であるといえます。

LINKS

CREDITS

· Planning / Concept:Agnieszka Kubicka-Dzieduszycka (SIAF2020 Curatorial Director of Media Art)
· Production:Sapporo International Art Festival Executive Committee
· Director / Web Development:Robin Jungers (Qosmo)
· Technical Director:Shoya Dozono (Qosmo)
· Designer:Naoki Ise (Qosmo)
· Project Manager:Sakiko Yasue(Qosmo)
· Technical Adviser:Nao Tokui (Qosmo)

札幌国際芸術祭2020特別編
主催:札幌国際芸術祭実行委員会/札幌市
共同企画・制作:Qosmo
助成:令和2年度日本博を契機とする文化資源コンテンツ創成事業

Descriptions of the work were written by
Taro Amano [T.A.] (Curatorial Director of Contemporary Art and Director in Chief of SIAF2020)
Agnieszka Kubicka-Dzieduszycka [A.K.D.]
Asami Hosokawa [A.H.] (SIAF2020 Secretariat Manager of SIAF2020)
Naoto Iwasaki [N.I.] (Curator of SIAF2020 (Hongo Shin Memorial Museum of Sculpture, Sapporo))
Kazumi Miyai [K.M.] (Curator of SIAF2020 (Moerenuma Park))
Emi Nakamura [E.N.] (Curatorial Advisor of SIAF2020)
Seiji Nakamura [S.N.] (Curator of SIAF2020 (Hokkaido Museum of Modern Art))
Tsubasa Nishi [T.S.] (SIAF2020 Secretariat Manager of SIAF2020)
Kazuhiko Sakurai [S.K.] (Director of Hobetsu Museum)

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