【自治領諸島の人々】生徒に話しかけられた教師の話

 教材一式を片手に抱えて、職員室を出る。廊下を歩いていると、これから授業を行う教室の扉の前で、二人の子供が立ち話をしているのが見えた。あちらも、こちらに気づいたらしい。二人揃って駆け寄ってきた。

 片方はいつも授業に参加している子、もう片方は初めて見る子だ。用件を尋ねると、この子と一緒に授業を受けていいか、と返された。「拠点」に来たばかりで、まだここの言葉は分からないけれど、と。

 快くOKしたら、二人ともぱっと顔を輝かせた。

 二人は、聞き覚えのない言語で、楽しそうに会話をしている。同じ言語を用いる友人の存在は、移住して日の浅い子にとって、大きな支えになっていることだろう。

 この学校は、「拠点」在住の子供に基礎的な教育を与えるために設立されたものだ。無償で通える。教科書や筆記具は、全て寄付で賄われる。対象年齢内であれば、誰にでも学びを得られる機会がある場だ。

 ここで問題になるのが、言語である。授業は全て「拠点」の公用語である現地語で行われるのだが、これが移住者にとっては大きな壁となるのだ。

 現地語の習得には、多くの時間がかかるだろう。しかし、だからと言って、学びへの道が閉ざされてはならない。故に当校では、言語を未習得の子供でも、出来る限り受け入れる方針になっているのだ。

 教室に入る。あの二人は、隣り合って座り談笑していた。その光景を微笑ましく眺めながら、教卓に向かった。

(改訂:2024/03/27)

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