【自治領諸島の人々】お腹を空かせた住民の話

 なけなしの金を手に、安さだけが取り柄の店に行き、飯を買う。腹も減ったしとっとと帰って食うか。そう決めて来た道を戻っていると、さっき通ったはずの道が通れなくなっていた。事件か何かが起きたらしい。あーあ。仕方ないので、少し遠回りをする事にした。

 よく知らない道を歩いていく。ふと、いい匂いがするのに気づいた。匂いの元を鼻で探す。その先には、おしゃれな感じのビストロがあった。あそこから漂ってきているらしい。

 匂いに釣られて腹が鳴ったが、もちろんそんなところで飯を食う金なんざない。ので、何も見なかった事にしてビストロの前を通り過ぎ……ようとした時、何かの鳴き声が聞こえた。

 覗き込んでみると、店の裏口のところで猫が飯を食っていた。何食ってんだろ。店の料理の残りかな。そう思っていたら、自然と猫の方に足を踏み出していた。

 猫が一斉に逃げだした。急に裏口の扉が開いて店員が出てきた。そいつと目が合う。ひゅっと喉が鳴るのを感じながら、慌ててその場から走って逃げた。

 泥棒か何かと勘違いされたんだろうか。ただ単に猫の飯を眺めていただけなのに。

 店が見えなくなったところで立ち止まる。店員は追ってきてないみたいだ。よかった。一息つく。そこでようやく、走ってる間に買った飯を落っことした事に気付いて、膝から崩れ落ちた。

(改訂:2024/03/03)

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