【自治領諸島の人々】シャワーを浴びようとした住民の話

 脱衣所で服と下着を脱いで、足下のカゴに放り込む。尻を掻きながらシャワールームに入り、シャワーの蛇口を捻って、捻って、ひねっ、ちょっと待って、何も出てこないんだけど。げぇ、故障だ。何をしてもうんともすんとも言わないシャワーを前に、思わず頭を抱えた。

 立地、築年数、間取り、建物の外観。家を探す時、重視するポイントはいくつかあると思う。

 この島に引っ越してきた時、一番に考えたのは大きな繁華街への行きやすさだった。遊ぶために来たんだから、って。なので、出来るだけ大きな繁華街に近く、かつ家賃がギリギリ払えそうなところを探してもらった。

 そして見つかったのが、この部屋だった。不動産屋には、かなり古くて設備もボロいと念を押された。けど、それが気にならないくらいの好立地だったから、一発で決めた。

 その結果。入居した時から、部屋のいろんなところが何となくガタついていた。それらを見なかったことにしてやり過ごしていた末の、今日のこれだ。

 もしかして、そのうち他のところも壊れていくんだろうか。やめとけと言わんばかりだった不動産屋の顔が浮かぶ。そうなったら修理代がいくらになるかを考えようとして、やめた。

 とりあえず、よそでシャワーを浴びてこよう。脱いだ服を手に取る。汗でほんのりと湿っている。着たくない。でも、他の服は汚したくない。シャワーを浴びるまでの辛抱と自分に言い聞かせながらそれを着て、出かける準備を始めた。

(執筆:2024/03/10)

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