【自治領諸島の人々】寄り道をするダンサー志望の子供の話

 努力はいつか報われる。ずっとお守りにしてきたこの言葉を今日は持て余してしまって、ダンスのレッスンを終えた私は、なんとなく路地裏に寄り道していた。

 イヤホンで課題曲を聴き、クラスで一番上手なあの子のダンスを頭の中でリピートしながら歩く。ふと気付くと、近くに猫がいた。

 この路地裏には野良猫が多くいる。住んでる人みんなに可愛がられているからか、どの猫もとても人慣れしている。この猫も、私がここにいることなんかお構いなし、といった風にくつろいでいた。

 寝転がり、毛繕いをし、あくびをし、伸びをする。自由気ままなその動きを眺めていたら、なぜかあの子の動きが重なって見えた。

 ねえ、どうしたら君みたいに、しなやかに動ける様になるのかな。そう語りかける。猫は動きを止め、こちらを見つめてにゃごにゃごと何かを言ったあと、ぷいっと顔を背けて歩いていってしまった。

 こっちに聞かれても困るって言われたのかな。そりゃそうだよね。なんだかおかしく思えてきて、自然と笑っていた。

 空を見上げる。そう、自分の事は自分でどうにかするしかないんだ。日々の柔軟やストレッチをもっとしっかり頑張ろう。少しでも理想に近付ける様に。うん。ひとつうなずいて、路地裏を出た。

(改訂:2024/04/11)

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