【自治領諸島の人々】ロードバイクで海を見にきた観光客の話

 ロードバイクを適当な木陰に停め、聞こえてくる波音をたどって木々の間を進んでいく。視界が開けた瞬間に飛び込んできた、鋭くまばゆい陽光に思わず目を細めて――それが薄れた先に現れたのは、どこまでも広がる美しい海だった。

 自治領諸島の東部に広がる、太古の昔に起きた噴火により形成されたと言われる溶岩台地。そのさらに東端にあるのが、この展望台だ。観光ガイドによれば、自然あふれる公園として知られる一帯の中でも、見晴らしの良さで人気が高いという。

 まだ午前中という事もあり、夕刻になれば観光地区側の海に落ちて美しい夕焼けを作り出す太陽も、今はこちらの海へと陽光を思う存分注いでいる。それを受けてきらきらときらめく海上には、船舶の姿くらいしか見当たらない。

 なるほど、確かにこれは「一度は見ておいた方がいい景色」だ。そう納得せざるを得ないほどの絶景。観光地区の宿から「ヴィレッジ」を経由してやってきた甲斐は、十分にあった。

 スマホを手にし、本日の日没の時刻を再度確認する。それまでに観光地区に戻ればいい。まだ時間はたっぷりとある。しばらくの間、休憩がてらこの景色を楽しむとしよう。そう決めて、展望台の手すりに歩み寄った。

(改訂:2024/04/06)

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