【自治領諸島の人々】「拠点」で見つかった死体とフンダドールの検死官の話

「はー……」

 検死報告書を書き終えてペンを置く。同時に、思わず溜息が漏れた。

 今回の死体は、警邏部隊が「拠点」の特に治安の悪い区域から持ち帰ったものだ。遺留品や服装などから、「拠点」の住民のものではない可能性が高い。故にウチに回されてきた、という訳だ。

 大方、観光客が興味本位で治安の悪いところに向かい、金目のもの目当ての奴等に襲われたんだろう。個人による動画配信が盛んになった辺りから、その手の被害報告が増加し続けているとも聞く。

 昔であれば、こういう案件は『部外者の「拠点」への立ち入りに対して一切の責任を負わない』として知らぬ存ぜぬで通していた。しかし近年、本国を含めた外部から、その姿勢が問題視される様になった。だから今は、「拠点」の住民のものではないと思われる死体は全て、こうして詳細な記録を残す事になっている。

 ……そうしたところで、外の連中は馬鹿の一つ覚えでフンダドールの管理責任を問うだけなんだけどな。入島時に誓約書にサインしたなら、「拠点」でどんな目に遭おうと自業自得でしかないのに。

 すっかり冷えてしまったコーヒーを飲み干す。空になった紙コップを近くのゴミ箱に投げ捨てて、デスクから離れた。

(改訂:2024/03/24)

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