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裁判傍聴:窃盗 その1

窃盗犯には、なかなか罪を認めようとはしない人が実に多い。
それが現行犯であってもだ。
往生際が悪いとしか言いようがない。
今回は、そんな被告女性2人の話をするとしよう。


窃盗(わ)第332号
30代後半の女性。
山陽コープで万引きをして捕まる。
途中から傍聴席に付いたので、何を盗んだかは不明。
万引きの前科が多数あり。
今回、執行猶予中での窃盗で裁かれる。

被告は岡山精神科医療センターに、月に1度通院しているとのこと。
解離性障害なので盗んだ記憶がないと証言した。


被告の弁護人は、同情作戦に打って出る。

弁護人
『旦那がアルコール依存症でパチンコばかり通って、5ヶ月くらい生活費を入れてもらえず、日々の生活が苦しかった。
寝るのも惜しんで働いていたら、睡眠不足になり、解離性障害が発生した。
更に旦那は、腎臓癌で1つ摘出という不幸にもあっています』


肝硬変じゃ……ないのね。
てかさぁ、パチンコ依存症もあるんじゃね?


審理の1番最後に、裁判官が被告に質問するのだが……

裁判官
『店に入った後、記憶が無いと言いましたが、店員に呼び止められた時、荷物を見てどう思いましたか?』

被告
『……(長い沈黙)……申し訳ないと思いました』

裁判官
『記憶が無いんだから、その商品を買ったとは思わなかったんですか?』

被告
『……(沈黙)……覚えていません』

裁判官
『あなた、自供書によると呼び止められてすぐに「お金を支払うので許して下さい」と言ってますよね』

被告
『……(ちんも~く)……お……ぼえてえていません……』

裁判官は、もう何を聞いても同じ答えだと思ったのか、ため息まじりで、判決日の日程を組んだ。

覚えていなくても、執行猶予中の犯行なので、数ヶ月ほどだが懲役になるだろう。


もう1人の女性はというと……。
窃盗、詐欺(わ)第424号
被告は、20代中頃の臨月の妊婦だ。
職業は、看護士である。


大きなお腹を抱え、酷く汚れた緑のワンピースを着て法廷に立つ。

自分が担当していた認知症の患者から、天満屋ハッピーカードを盗み32000円を使った。
この事件の発覚には、被告がホームセンターの店内で、ガステーブル(ガスコンロ)を盗んだ時に、現行犯で捕まり余罪として発覚したのである。

検察官
『ガステーブルを盗んた事を覚えて無いそうですね』

被告
キッパリと『はい』

検察官
『あなたは、そのお腹で、コンロが3つ設置されている大きなガステーブルを両手で抱えて店を出ました。本当に覚えて無いのですか?』

被告
速攻で『はい』

検察官
『防犯カメラに、堂々とお店を出る姿が鮮明に記録されてますよ。それでも、そう言いますか?』

被告
『…………ウッカリ、支払うのを忘れただけです』

検察官
『そうですか……でもあなた……ガステーブルにわざわざ、お店のシールを貼って出られてますよね』


……チィーン

用意周到だね


その後は言葉に詰まりながらも、シールを貼った記憶が無いと繰り返す被告。
検察官もかなり呆れ、最後は
『お体に気を付け、丈夫なお子さんを産んで下さい』と締め括った。

判決は
執行猶予4年
懲役2年

看護士という立場を悪用しただけでなく、大胆にも両脇に抱えてガステーブルを盗んでいく。
これから産まれてくる子供に被告は何を教えていくのだろう。
他人事ではあるが、いく末を心配してしまう。
そんな裁判であった。

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