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ずっと見ていたい

見慣れた町並みに、突然それは現れた。いや、気づかなかっただけで、ずっと前からあったのだろうけど。商店と民家が混在する、地元のバス通り。コンビニの二軒先、小さな家の二階の窓の両脇に、壁から垂直に隔て板のようなものが延びている。

「あ、うだつ……」
すぐにこの言葉が口をついて出たことに、自分でも驚く。本や映像で見た、だけど自分の生活圏で初めて目にするそれは、縦長の板の両面に、松と鶴を配した優雅な日本画が描かれている。古びてはいない。運転中なのに、目が釘付けになってしまう美しさだ。

その後たびたび、遠回りになる場合でも、そこを通った。近づくと徐行して、ずっと見ていたいと思う。細部まではよく見えないけど、あの鶴は高貴な顔つきをしているに違いない、なんて勝手に想像しながら。

うだつの上がる家。敬意と、不思議な懐かしさを携え、今日もあの道を行こう。

#旅する日本語
#致景

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