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除雪の4トンダンプ編〜3〜

【路上の攻防】

「おすよ〜」
無線で1番聞きたくないワードだ。
「ハマりました〜」
無線で1番言いたくないワードだ。

4トンダンプに乗っていると雪道はさまざまな状態に変化していることがわかる。乗用車ではあまり感じなかったことだ。
1日経つと、いや、下手をすると1時間くらいでも状態が変化する。同じルートなのに同じルートじゃない!一度安全に通れたルートも次に向かうと悪魔のルートになっている事がしばしばある。トルネコの大冒険、不思議のダンジョンが頭に浮かぶ。入るたびにダンジョンの仕様が変わるゲームである。
敵(対向車)も常に変わる。車体の大きさも相手ドライバーの運転技術も譲り合いの心も。
よく聞く雪の状態にベタ雪、サラ雪なんてものがある。ベタ雪は水分が多く、固まりやすい。そして重い。雪合戦や雪だるまを作るには最高で、なぜか大半の人がベタ雪の時は意味もなく雪玉を作ってしまう。子供はこの雪が大好きだ。対してサラ雪はその名の通りサラサラしており、雪玉が作れない。パウダースノーと呼ばれる物でスキーやスノボーでは最高である。雪かきも簡単で軽い。そのかわり強風が吹くと地吹雪といって晴れていてもホワイトアウトすることがある。
雪道にはこのベタ雪、サラ雪が大きく左右する。さらに気温や気候でその状態はいっぺんする。たとえば、サラ雪で降って、太陽が出てくると、道はジャリジャリになり、そのまま気温が下がるとカチカチガタガタツルツルの最悪の状態になってみたり、同じような条件でも少し違うだけで雪が締まってとても走りやすい道にもなる。
ある程度予測はできるが、日陰日向、交通量でも変わるため、常に雪の状態を見定めなければならない。そりゃ、疲れるわけだ。

ダンプというと、どういうイメージだろうか。力強く、どんなオフロードも超えていける4WDのようなイメージはないだろうか。自分は夏場に乗っていてもそういう感覚があった。たしかにドロドロのオフロードはぬかったりはするが、ほとんどの道を走行できた。
だから勝手に4WD、つまり四駆だと思っていたのだ。なんとダンプはFR、後輪駆動、前タイヤは転がっているだけだった。
初めてハマって動けなくなったのは会社の場内だった。5センチくらいしか積もってなくてサラサラの雪だった。ダンプの上に積もった雪を落とすために少し移動し、ダンプアップ。場内で気が抜けていたのか、発進する際にアクセルをふかしすぎて、かっちゃいてしまった。タイヤは空回りし、動けなくなった。タイヤの下の雪は光っている。
たいして埋まってる様にも見えず、何故これで動けないのかわからない。
続々と出発するダンプとタイヤショベル。
置いていかれそうな所を最後のタイヤショベルを捕まえる。
「すいません。ハマりました。」
タイヤショベルから無線が入る。
「あはは、そんなとこでハマったの?発進はゆっくりだよ〜かっちゃいちゃだめだよ〜」
「はい、すいません。こんなんで動けなくなると思いませんでした。」
「あはは、いいよ〜押すよ〜」
タイヤショベルがダンプの後ろにまわり込み「おすよ〜」
バケツでバンパーを押すと、ダンプはゆっくり前にでた。
「もう行けるかな?かっちゃいたらだめだよ〜あはは」
「はい!ありがとうございます!会社出ます!」
そう。ダンプはパワーはあるが雪道ではそのパワーがアダとなる。とても繊細な発進が求められるのだ。ブンブンアクセルを踏んで出れるものではない。
雪がたくさん降り、新雪の場所はほぼ行けないと思った方がいい。
ハマる確率が非常に高い雪道は雪で真ん中が山なりに盛り上がっている道路である。こうなってしまってる道路は非常に怖い。真ん中を走っていても突然横にタイヤが滑り落ちたりする。
車が横に移動するのは普段ありえないことなので少し横に滑り落ちただけで冷や汗がドバッとでる。
滑り落ちたときにハンドルさばきとアクセルでどうにか切り抜ければセーフだが、滑り落ち切ってしまうとアウトである。左右にあるフカフカの雪でハマる。
「すいませんハマりました」
「おすよ〜」
と、なる。
人工的に罠が作られている事もある。チェーンなどを巻いた車がタイヤを空回りさせると光ったりはせず、グズグスのシャーベットの様な雪になり、そのチェーンを巻いた車は出れるが、スタッドレスオンリーの4トンダンプには最悪の道になる。ハンドルはとられるし、横には滑るし、はまりこむと動けなくなる。こういうのを、『道を壊す』と呼んでいる。
あのダンプ道壊していったな。とか、あの坂道壊れてるから違うとこからあがって。
と、いう具合に使う。
その悪魔の罠を突破するには、助走をつけて惰性で走り抜けるしかない。
稀にずっと先まで罠が続いている道もある。
やはり駆け抜けるしかないのだが、ここで対向車や歩行者、上り坂との戦いとなるのだ。
道を譲れば、ハマる。ハマると結局動けなくなり対向車も通れなくなる。
もう、頼む譲ってくれ!と念を飛ばしまくるしかない状況もしばしばある。片手でお願いのポーズをとりながら上がる事もある。その時の自分は仏のような顔になっているだろう…
上り坂で念が届かず、グイグイ下がってくる乗用車が来た場合。ハマらないところで停車し、スーパーバックをするしかない。
直前で気づいて停まったり、譲ってくれる乗用車もいるが、4トンダンプは一度停まるともう上がれない。雪をたくさん積んでいれば後ろタイヤに荷重がかかり、登れたりする事があるが荷台がカラだとそうは登れない。そう、ということはスーパーバックしかないのである。
山での恐ろしいバックの経験はここで活かされる。山とは違い、道も狭く歩行者もいる。この場合、コントロールと度胸と予測が必要になる。
ミラーはもちろんの事、見えない後ろ、見えていない雪道の状態、退避する場所、更に対向車のプレッシャーすべてを感じながら行かなければならない。まさに鬼滅の刃というアニメの全集中!一点集中ではだめだ。全てに集中しなければ事故る!!
と、まあ、除雪の4トンダンプはこんな感じなので、是非、乗用車の方は譲って欲しい。

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