中国脅威論の虚妄

 自民、維新の改憲の叫びがますます強まります。憲法は政治権力に縛りをかけて、国民の権利を保障するためのルールです。それを破り続ける自民党は確信犯です。連中が推進する改憲を、9条を亡きものにするたくらみと批判するのでは、足りません。
 それ以上に重大なのが、緊急事態条項の新設です。恐怖政治の時代が拓かれます。なにしろ西田昌司のように「国民に主権があるなんて間違ってるんだよ」と公言するひとたちですから。そもそも、現憲法の柱である、国民主権、個人の権利、平和主義をダカツのごとく忌み嫌い、1955年の結党いらい一貫して改憲を党是としてきたのが自民党なのです。

 いまもって、江戸時代から敗戦までの悪しき文化に染まり切ったまま、大臣や役人を「お上」と呼ぶ、ニッポンのこの風土では、それが抵抗を受けません。諸外国では考えられない話です。なんたって、公務員は公僕なんですから。それが民主主義ってもんでしょう。日中、和英、和仏辞典には、当局、政府、天皇、将軍を意味するauthorities、government、emperor、 shogun などの訳語はあるが、天皇と将軍のどちらにも使える「御上」というのに該当する言葉はないのです。

 そういうひとたちがいまさかんに唱えている中国脅威論は、次のような理由で、虚妄であり、また、虚妄でなくても無駄だと私は考えます。

 第一に、そういう主張をするひとたちが、日本をチベットやモンゴル、そしていまではウクライナになぞらえているからです。それらはどれも、中国やソ連の領土内の地域だった国です(私は大国というものが悪であると考えますが、それはいまは別とします)。
 日本は一度も中国の領土であったことがありません。ならば、その意味で同様な近隣のベトナム、フィリピン、ラオス、タイ、そして朝鮮、韓国と比べるのが妥当ではありませんか? 台湾が危ないというのならわかりますが。

 虚妄だという第二の理由は、日本を滅ぼしてぶんどろうと思ったら、海を渡らなければならず、手間がかかります。中国は南シナ海では、海外に出て行く通路と海にある資源のために、近隣諸国にとっては勝手きわまる軍事展開をしてはいますし、米国との対抗上、太平洋への通路がほしいから、尖閣などと言っていますが、本来、商売人の国なので、軍事で世界制覇などというより、世界の諸国にいる中国人を使った世界支配を目指すのではないかと思います。中国の艦隊が世界中に展開するというのも考えがたいことです。いまはそんな時代ではないからです。
 もし中国が世界のどこかで軍事的にことを起こせば、それらの国にいる在外中国人はどうなるでしょうか? 中国は人権などなんとも思わない国だから、海外の同胞を平気で見捨てるだろうと思いますか? 中国の人権無視は国内の比較的貧しい地域の人たちに向けられたものではないでしょうか? 在外中国人は大事な稼ぎ手です。どこかの国でそういう人たちが人権を無視されれば、世界中の在外中国人が黙っていないのでは?

 中国脅威論が無駄であるという理由は、日本の地政学的条件です。国土が南北に長く、東西の奥行きが極めて浅いから、西の中国からは極めて攻めやすい。しかも、そのうえに54基か57基の原発がずらりとならんで、縁日の夜店の射的みたい。撃ち外れなしです。それをせいぜい2,3基もミサイルで撃てば、日本は終わりです。戦争は日本には成り立たない仕事なので、これは憲法以前の問題です。

 いま改憲によって軍事的脅威に備えろと言っている連中は正常な精神の持ち主とは言えません。軍需産業のために働く政府のもとで、戦争ができるようにするという方向づけに従って妄想を膨らませる。その妄想のもとになってるのは、ニッポンこそ世界に冠たる神の国、と言う国家ナルシズムです。世界がいよいよつながりを深めているときに、自分だけの狭い後ろ向きの穴のなかに潜り込んでいこうというのです。明らかに異常です。

 中国がこわいと言いながら、中国人が北海道を買い占めつつあるのを放置しているのは、どういうわけでしょうか。
 これからの日本は二度とかつてのようなGDP大国にはなれない。ならば、これまでの高慢を反省して、近隣の、悠久の昔から中国と喧嘩しながら共存してきた東南アジア諸国の仲間に入れてもらえばいいのに、それらの国から来た労働者に対して何をしているのでしょうか。
 湾岸戦争のとき、イラクの侵攻を受けたクウェートに、近隣のアラブ諸国からはなんの同情も寄せられませんでした。大油田だけが頼りの小国が、成金になって豊かな暮らしと高度の福祉を達成し、そこに近隣諸国からの労働者を入れて低賃金でこき使ったから、怨嗟を受けていたのです。日本にとって、これはまったく湾岸の火事ではありません。
 中国が怖ければ、売国土をやめるべきです。

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