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イスラエルのガザ攻撃は米国のベトナム戦争と同じ

 米国のよく知られた国際問題専門誌『フォーリン・アフェアズ』6月21日号に掲載された記事が、長周新聞7月5日号で紹介されていた。以下は、それを圧縮したものである。原文の意を損ねない範囲で言葉を変えた部分があることをお断りする。
https://www.foreignaffairs.com/israel/middle-east-robert-pape

ハマスが勝利しつつある

 イスラエルの戦略上の失敗が敵を強くした理由
 ロバート・ペイプ教授

 昨年10月以来、イスラエルは、4万以上の軍でガザ地区を攻撃、37000人の住民を殺害し、人口の80%を難民にしてきた。7万トン以上の爆弾を投下、建物の半分以上を破壊、水、食料、電気を断ち、全住民を飢餓に陥らせている。
 にもかかわらす、ハマスの弱体化は見られず、逆に勢力は拡大している。
 1966年から67年にかけ、米国は南ベトナムに軍を投入、大部分を荒廃させた大規模な捜索と破壊作戦を行ったが、ベトコンが力を増した。
 と同様、ハマスは依然難攻不落であり、強靱なゲリラと化している。
 イスラエルの失敗は、ベトナムでの米国の失敗とよく似ている。
 ハマスの力の源泉に対する重大な認識不足が問題なのだ。ガザでの殺戮と荒廃が敵をより強くしただけだということに気がついていないのだ。
 米国がベトナム戦争でそうだったように、イスラエルは敵の死者数ばかり見ている。それではハマスの真の力を見ることはできない。
 兵士が殺されても、ハマスは、民間人の集中する地域を含むガザの大部分を支配している。依然としてガザ住民の支持は絶大だ。だから、イスラエル軍が「掃討」した地域に容易に帰還している。今や、昨年イスラエル軍が数百人の兵士を犠牲にして制圧したガザ北部地域に、南部のラファより多くの戦闘員を抱えている。
 ハマスが現在行っているゲリラ戦は、待ち伏せや手作り爆弾(不発弾やイスラエル軍から捕獲した武器でつくることが多い)による。戦闘員は15000人で、10月7日の対イスラエル攻撃のときの約10倍だ。
 さらに地下トンネル網の80%以上はイスラエルの監視、捕獲、攻撃を免れ、武器を保管し、計画を立てるのに使用できる。ガザにいる最高幹部のほとんどは無傷である。
 要するに、秋のイスラエルの攻撃は、ハマスにイスラエル市民を攻撃する力を残したままだ。イスラエル国防軍がガザ南部での作戦を強行しても消耗戦になるだけだ。

 イスラエル軍はアフガンで米軍を何年も停滞させたお定まりのモグラ叩きゲームをしている。敵の死体の数は戦術レベルのことで、それを戦略の成功と混同してはならない。敵の戦略的な力を示す重要な指標はそこにはない。ハマスその他の非政府勢力にとって重要な力の源は、人材の勧誘、とくに若い世代の戦闘員を得る力だ。それは、ハマスらが社会から大きな支援を受けているからこそである。
 パレスチナでの世論調査では、ハマスへの支持は高まっている。2023年6月、ハマスとファタハの支持率は互角だったが、24年同月には、ハマスが40%で、ファタハは20%。倍に差が開いた。イスラエルの爆撃と地上侵攻が招いた結果がこれである。今年3月、パレスチナ人の73%が、ハマスの攻撃を正当と答えている。昨年の9月にはイスラエル市民への武力攻撃を支持するパレスチナ人は53%だった。
 ガザ市民はハマス指導者やイスラエルの人質の居場所をイスラエル軍に明かさない。とくにヨルダン川西岸で、対イスラエル武力攻撃への支持は上昇している。

 10月7日以前には、ハマスの支持は衰退していた。ハマスは、イスラエルとアラブ諸国の関係正常化を進めるアブラハム合意のもとで、 パレスチナ人が苦境に立たされたまま置き去りにされることを懸念していた。
 10月7日以降、パレスチナ人のハマス支持は上昇している。
 イスラエルはガザで何千人ものハマスを殺してきたが、却って、ハマス支持が高まり、それは現役戦闘員の損失を相殺するに足りるもので、次世代を勧誘する力が増しただけだった。ハマスの現在の戦闘員は、イスラエルの標的を長期的ゲリラ戦で攻撃できる。

 9ヶ月にわたる苛酷な戦争を経て、厳しい現実を認識する時が来た。ハマスを軍事力だけで倒すことは不可能なのだ。ハマスは、現有の戦闘員の数より大きく、単なる理念や思想を超えた存在である。すなわち、暴力を中核とする政治的、社会的な運動であって、なくなるものではない。


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