髄の年輪のモノローグ 第6回 music from the mars『music from the mars』

 大学に入るとほぼ同時に音楽ライターになった私は、趣味と実益を兼ねてのライブハウス通いを本格化させ、週3回くらいのペースで都内のライブハウスを右往左往していた。起床して、早朝の3時間だけバイトをし、大学に行き、終わったら当時お世話になっていた編集部に行ったり取材に行ったりし、良いイベントがあれば観に行き、帰って寝て起きて……の繰り返し。当時の行動と経験がそのまま現在の私の土台になっていることを考えるに、無駄でも間違いでもなかったどころか大正解だったのではないかと思う。

 あれは2003年5月のことだったと記憶している。 新宿LOFTでViewsic(現MUSIC ON! TV)主催のライブがあった。キュレーター的な立ち位置で行達也さんが参加していて、氏のオススメのアーティストで組んだ3マンをViewsicで収録している、というようなシリーズもののイベントだった。
 その日の出演者は、dip、sleepy.ab、music from the marsの3組だった。当時sleepy.abが好きで、既に数回ライブを観ていたけれど、また観たくなったし、dipはもちろん知っていたし観てみたかったので、良い機会だと思い、足を運んだ。
 もう1組のmusic from the marsについては何も知らなかった。予習しておこうと思い、検索したりしてみたけれど、全然情報がない。当時の公式サイト的なものには辿り着いたけれど、それを見てもよくわからない。BOaTの坂井キヨオシさんが(当時はサポートで)参加していることしかわからない。試聴もない。仕方がないので、そのままの状態で観ることにした。

 開演に間に合うように到着し、1組目のsleepy.abを堪能し終え、のんびりジンジャーエールを飲んでいると、2組目のmusic from the marsの時間になり客電が落ちた。見た目は普通のお兄さんたちの3ピースバンドに坂井さんが加わっているといった趣で、結局どんな音楽性なのかは読めないままだった。けれど。
 1曲目がいきなり7拍子。しかし、聴いてすぐに鼻歌できそうなくらいのポップな歌もので、ちょっとジャジーなテイストもありつつ、とてもエモーショナル。マニュアル車のギアチェンジのように途中で拍子が変わる曲もあるのに、身体が勝手に動く。知らない曲なのに口ずさめそうな気がしてくる。あまりの衝撃に混乱しつつも、目を丸くしながら踊り続けるしかなかった。なんだこれ。なんだこれ!
 必ずや物販席に立ち寄り音源を購入しなければならないと本能が叫んだけれど、無情にも「音源は持ってきていない」との旨のアナウンスがあった。しかし、物販席に置いてあるノートに名前と住所を書いておけば、後日郵送してくれるという。もちろん、書いた。かなり斬新というか、このご時世では……いや、当時からしてももう二度とできないような音源配布方法ではあったけれど、特に何のトラブルもなかったので、ご愛嬌ということで。

 数日後、約束通りポストに入っていたCD-RをiPodに入れ、何度も何度も聴いた。すっかり夢中になり、彼らのライブにも通うようになった。
 そして、翌年の夏、あのイベントのキュレーターだった行さんのmona recordsから正式な音源が出ることになった。あの時に演っていた4曲が入っていた。

 変拍子だらけの長尺曲をそうとは感じさせず聴かせる、強引に手を引かれて導かれるようなグルーヴ。当時20代とは思えない、高い演奏スキル。どうやって作ったのか聞きたくなるような、ふくよかで不思議なアレンジ。顔で弾くギターソロ。甘い歌声。とんでもないバンドに出会ってしまったと改めて思った。「火星からきた音楽」という意味のバンド名通りの、地球上では未知の音。こんなバンド、これ以前にもこの後にもいないし、今後も出てこないだろうし、真似をしようとしてもできない。おおらかなように見えることもあるけれど、ものすごく緻密に組み上げないと、こうはならない。ある種のロストテクノロジーなのかもしれない。となると、本当に火星からきたのかもしれないし、そうではないのかもしれない。
 このセルフタイトルのミニアルバムは、実のところまだまだ発展途上の段階で発表されたもので、彼らはこの後どんどん化けていくことになる。ふわっとしていた部分がソリッドになり、その上から新たな厚みを手に入れ、3人+1人だったのが6人組になり、ライブパフォーマンスはどんどん熱くなり、大人っぽさも身につけ、歌詞の傾向も変わり……。
 さすがに当時のように頻繁には行けなくなってしまったけれど、未だに年1回以上くらいは彼らを観に行くようにしている。その度に進化/深化を目の当たりにして、嬉しくなる。やはりバンドは生きものなのだ。

 この2003年5月の経験から私が得た教訓のひとつに「お目当てのアーティストだけでなく対バンもちゃんと観る」がある。LOFTはライブスペースとバースペースが分断されているので、あの日もお目当てのsleepy.abとdipだけをライブスペースで観て、music from the marsはよく知らないから観ずにバースペースで休憩する、ということもできたはずだ。それをせず、「よく知らないけど観る」という選択をした当時の私を褒め称えてあげたい。そのおかげで彼らに出会えて、今の私がある。
 あと、この件の後、対バンの予習をしなくなった。敢えて何も知らずに観ることで、良いアーティストに巡り会えた時に喜びも興奮もより強く感じられる。
 もちろん、対バンを観てみても好みじゃなかったということも多々ある。しかし、素敵なアーティストに出会ったことも数知れず、現にお目当ての対バンで出ていたことを機に存在を知り活動を追うようになったアーティストはmusic from the marsだけではない。
 好きなアーティストのライブも観られるし、自分の引き出しや趣味趣向も拡張される。これだから、ライブハウス通いはやめられない。


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掲載日:2019年11月10日
発売日:2004年7月10日
(15年4ヶ月0日前)
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髄の年輪のモノローグ 目次:
https://note.mu/qeeree/n/n0d0ad25d0ab4

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