髄の年輪のモノローグ 第18回 Hermann H.&The Pacemakers『SIX PACKS』

 まだスマートフォンがこの世に存在せず、インターネットも今ほどは浸透も活用もされていなかった頃、出かけた先で音楽を掘ろうとした時の手軽な情報源といえばCDショップのPOPだった。何かのついでにCDショップに行ってPOPを見て試聴して他のPOPを見て試聴して他のPOPを……という無限ループに勤しむことは数知れず、店内滞在時間も自然と長くなっていた。気に入ったものはちゃんと買って帰っていたので許してほしい。
 (もちろんお店によるとは思うけれど、)当時のPOPは店員さん手書きのものが多かったような気がする。ちょっとしたアーティスト紹介と、推したいポイントと、推したい曲と、普段どんな音楽を聴いている人に対してオススメかが書いてある。だいたいこんな感じ。
 【下北沢を中心に活動する男女混合4人組バンドの待望の1stアルバム。春風のような爽やかなギターポップ。オススメ曲①③④。(バンド名A)・(バンド名B)・(バンド名C)好きはマスト!】

 ごくごく個人的な感覚の話で申し訳ないが、私は上記のような「あるアーティストを紹介する際に他のアーティストの名前を出す」というのが好きではない。そもそも自分は音楽をジャンルや雰囲気で区切って聴いていない。そんなに細分化する必要はあるのだろうか、全部「音楽」と呼ぶのではダメなのだろうか、と常々思っている。もちろん知識としては頭に入れてはいるし、個人的にも「クラシック」「メタル」「テクノ」くらいの大分類なら日常的に使うけれど、それよりも細かく枝分かれしたジャンル名に対しては、「そんなに細分化する必要ある?」という気持ちが勝ってしまうので、ほとんど使わない。で、そういう考えかたの持ち主なので、アーティストを紹介するために別のアーティスト名を出して説明するということもよくわからない。POPを書く側としては説明しやすいし、読み手としても伝わりやすいのであろうことは重々承知しているし、私のような思考がイレギュラーなのであって一般的にはそれで良いのだというのも理解している。けれど、なにせ私はいつも「(奇を衒ったわけではないのに)どうしてこうなった」と言いたくなるような唯一無二の道を歩むアーティストばかりを好きになるので、いわゆる「●●フォロワー」「xx系」等と呼ばれるようなアーティストを芋づる式に掘っていくようなことはしない(結果としてジャンルやシーンが近しいアーティストに辿り着くことはあるけれど)。なので、個人的にはアーティストをアーティストで紹介することはしないし、そもそもそういった考えかたが脳内に存在しないので、やろうと思ってもできない。
 しかし、過去に1組だけ、私にも「アーティストでアーティストを紹介する」ことしかできなかったバンドがいた。

 Hermann H.&The Pacemakersをはじめて知ったのは高校生の頃だった。大学のサークルで結成されたという、若くて男女混成で人数が多めのバンド。音楽雑誌で何度か記事を目にした後、テレビ神奈川で偶然『東京湾』のMVを観た。

 曲調、MVの演出、そして謎のパート「ウルフ」の存在……。インパクトが強すぎて、“狙っている”タイプのバンドなのかとも思ったけれど、その前に出た『夜には星と音楽を』と、その後に出た『言葉の果てに雨が降る』を聴いて考えが変わった。どうやらこのバンド、とんでもなく懐が広いようだ。ありとあらゆるものを飲み込み分解し頭脳と才能を以て再出力した結果が、このバラエティに富みすぎる楽曲の数々なのだろう。
 しかし、この雑食さ、このインテリジェンスなごちゃごちゃ感、身に覚えがある。そういうアーティストを、私は遺伝子レベルで知っている。
 サザンオールスターズだ!

 ヘルマンとサザン。バンドの成り立ちや編成にも近しい点が多く(ちなみに出身大学は違う)、泣けるスローテンポな曲からシンガロングできるアッパーな曲まで取り揃えているところも、なんとなくどことなく歌謡のエッセンスを感じるところも、時々英語が混ざるところも、ライブが楽しいところも、似ている。ちなみに、ヘルマンの一部メンバーさんはサザンの大ファンらしい。しかし、いくら真似ようと思ってもここまで多くの共通点を生むことはなかなかできないだろうし、そもそも真似しようと思っていなかった可能性もある。そして、たしかに似てはいるけれど、意図的な“サザンフォロワー”というわけではなさそうだ。ヘルマンにはヘルマンの個性があるし、サザンにはないものを持っている。
 最初は「サザンっぽい」という言いかたしかできない自分に辟易したりもした。なにせ「アーティストでアーティストを紹介する」ことに疑問を呈し続けてきた自分が、まさにその方法を使わざるを得なくなっているのだ。しかし、すっかり夢中になって聴いているうちに、このバンドだけは敢えてその紹介を続けようと思うようになった。
 「サザンの後継者」「次世代のサザン」「新しいサザン」。これが、当時の私がヘルマンを紹介する際に実際に使った言葉だ。
 どうして開き直ってサザンの名を出すようになったのか。ヘルマンは、サザンにも負けないくらいの人気者になるだろうと思ったからだ。そうなると本気で信じていたからだ。本当に「サザンの後継者」になると疑わなかったからだ。しかし、サザンという名の山はあまりにも高すぎたわけだが……。

 ヘルマンはこの数年後に活動休止したものの、2012年に突然の復活を遂げた。ので、万難を排して復活ライブに行った。泣いてしまうかと思ったけれど、楽しすぎて涙が引っ込んでしまった。スーツ姿のサラリーマン男子がダイブしていて壮観だった。
 その後、新譜も出し、コンスタントにライブ活動もしていたが、岡本さん(vo&g)を病が蝕んだ。ステージ4の下咽頭癌。ボーカリストが、喉の癌。喉の全摘出の可能性もあったようだが、放射線と抗癌剤で治療し、完全復活を成し遂げた。意思と根気と現代医学の勝利。あの素敵な声を失わずに済んだのだ。なんと素晴らしいことだろう。(ちなみにサザンの桑田さんも癌を患って一時活動休止したことがある。なんという偶然だろうか……)
 そして、2020年現在も、元気に活動中。あの頃信じた「次世代のサザン」は、ちょっと大人になったけれど、今も変わらず、数多のピンチを乗り越え、地に足をつけて、ここに在る。もしかしたら、これから正真正銘の「サザンの後継者」になるかもしれない。当時リアルタイムでは触れられなかった方も、聴いて追いかけてみてほしい。今からでも遅くないという、幸せ。


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掲載日:2020年8月2日
発売日:2001年10月24日
(18年9ヶ月9日前)
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髄の年輪のモノローグ 目次:
https://note.mu/qeeree/n/n0d0ad25d0ab4

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