【読書録】ミシェル・ド・セルトー『ルーダンの憑依』

 僕が私淑している作家の佐々木中という人が、ツイッター上で勧めていたので読み始めた。あまりこの、セルトーという人の研究領域について詳しくは知らない。最初の方を読んだ感じは、フーコーに近い。遡るべくもない過去について、徹底して資料を頼りにして、目の前に見えるように再現して見せる。しかし、佐々木中は、まさにその、歴史上あったことの、再現のしにくさというものが一番わかると言って、本書を紹介していたのだった。中世の、悪魔憑きについてのドキュメンタリーだ。はじめにざっくりと、全体的な空気感について言えば、十何年のスパンにわたって、パリの一地域がその悪魔憑きの事件に、沸き立ったようになる。はじめはそれほど込み入ったことにも見えないのに、誰が本当に憑依しているとか、今までの宗教に対する不信とか、その他権益にかかわる貴族のような人がしゃしゃり出てきたりと、そんなことが重なって、事態は霧の中のように不明のなかに消えていくのだ。
 にもかかわらず、不思議と、目の前に言葉があるので、一人一人の言っていることは、その人の表情が見えてきそうなくらい、鮮明なのである。ただ、何が実際に起きているのか、とんとわからない。寓話化して『藪の中』なんかにもなっているが、現実の話だと、実際には何が起きているのよ、と叫びたくなる。

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