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ブラインドサッカー観戦「拡大してなんとか見る」から「楽に見て、楽しめる」網膜投影。

3月9日、町田市立総合体育館でアクサ ブレイブカップブラインドサッカー日本選手権(ブラインドサッカーチームの日本一を決める大会)が開催されました。本大会では、東京都が行っているパラスポーツのファンを増やすプロジェクト「TEAM BEYOND」の協力のもと観戦会も開かれ、QDレーザの網膜投影視覚支援機器「レティッサオンハンド」や、音声ガイドなども貸出し、見えづらさがある方でもサッカー観戦ができる工夫が施されました。

開催の少し前に、ある大学生からご連絡をいただきました。

「私の学校のメンバーが出場する試合を、網膜投影を使って応援してみることはできますか?」

彼女は、日本で唯一「視覚・聴覚障害者であること」を入学条件とする国立大学「筑波技術大学」の学生で、彼女にも見えづらさがあります。

彼女が応援したいチームは、筑波技術大学春日キャンパスを中心に活動する「Avanzareつくば」です。「Avanzareつくば」のメンバーは、視覚または聴覚に障がいのある人が学ぶ筑波技術大学の学生を中心としながら、日本代表クラスの社会人が多く所属するチームで、日本選手権優勝9回、クラブ選手権優勝3回を誇る強豪チームです。

自分と同じ大学に通う仲間が、勝利を目指し戦う姿を、網膜投影視覚支援機器「レティッサ」を使えば、今まで見ていた方法よりも、もっと楽に見ることができるかも!と思い連絡をくれたのです。

拡大をして何とか見るという方法

ロービジョン者には様々な視力、視野の状態がそれぞれ異なり、見え方も千差万別ですが、見えづらさのあるロービジョン者にとって、見たいものを見る時に、拡大をして見るという工夫があります。
例えば、遠くのものを見る時に単眼鏡を使うロービジョン者もいます。単眼鏡は片目でのぞく望遠鏡で、遠くや、数メートル先を見るのに便利ですが、片手で操作をするのに少し練習も必要になります。
また拡大をして見る時の工夫として、利用している方が多くなってきている方法が「スマートフォンの拡大機能」です。

スマートフォンの拡大機能は便利ですが、拡大した画像を目を凝らし見ています

スマートフォンの拡大機能は非常に便利で(いつでも携帯電話を持っている。簡単に指で拡大をすることができる)、この機能を使っているロービジョンのある方は沢山います。見たい方向にスマートフォンを向け(場合によっては写真を撮り)、指で拡大をし、目を画面に近づけ、目を凝らして見る。これがスマートフォンを使って見る、ロービジョンのある方の工夫です。実際に彼女も、スポーツ観戦だけでなく、日常の中でスマートフォンの拡大機能を多用し生活をしています。
しかし、このスマートフォンの拡大機能を使う方法は、少し不便なこともあります。それは、早い動きに対応をするのが難しい、拡大をするので一部しか見ることができない、そして、目が疲れやすい。という事です。この「拡大をして見る」という方法は、正確に表現をすると「拡大をして何とか見る」という工夫なのです。
拡大をすることで、見たいものの一部は見ることが可能になる、でも、視野が狭くなり一部しか見ることができない。拡大をすることで、見たいもの解像度は上がる、でも、目を凝らして拡大した画像を見るので長時間見ていると目が疲れてしまう。というジレンマがあります。
それでもロービジョン者にとってこの拡大をして見たいものを見るという方法は、見えづらさを解消するとても重要な方法なのです。

目は楽に、直接ピントが合った映像を網膜に届けてしまう新しい技術

網膜に直接投影される仲間のボールタッチを目で追いながら応援しています

スマートフォンの拡大機能ではなく、手持ち型の網膜投影視覚支援機器「レティッサ」を使ってボール運びを見ている彼女の目は、実はピント調整機能を使っていません。つまり、目はリラックスしたまま、ぼんやりと眼を開けている状態なのです。カメラから撮影をしているピントが合った状態の動画(選手のボール運び)をリアルタイムで、目の網膜に投影をしているため、目のピント調整機能を使わずにピントが合った映像が、視神経を伝達し脳に届き、映像として見ている(勝手に見せられている)のです。
つまり、スマートフォンの拡大機能の、見たいものを大きくする→見える範囲が狭くなる、見たいものを大きくする→画面に目を近づけて何とか見る、という弱点を、網膜投影技術は解消できるのです!

手持ち型の網膜投影視覚支援機器「レティッサ」を使って、仲間たちを応援した彼女は、「スマホを使うよりも目を凝らさないから、長く見ていることもできる」「拡大をすれば大きくも見れるけど、コートや選手の動きを見るような全体を見ることはスマホでは難しさもあるので、広く見れてるところがいい」と喜んでくれました。

ロービジョン者にとって選択肢が多いことは

ロービジョン者の見え方にはグラデーションがあり、視力だけでなく、視野も違います。人によっては光や影を感じる程度の見え方の方もいれば、明るく見えすぎて眩しくて見えづらい人もいます。視野が一部欠けていて中心だけ見えない人もいれば、周りだけ見えない人や、一部、まだら状に視野が欠損し見えづらさのある方もいます。見え方は千差万別なのです。
このように同じロービジョン者の中でも見え方に幅があるため、ある一つの方法、ある一つの製品だけが見えづらさを解消する解になることは、ないのかもしれません。網膜投影も網膜に投影をする性質上、上手く投影でき見ることができる人、やはり見ることが難しい人、個人差があります。
しかし、仲間たちの走る姿、ボールを追う姿を「レティッサ」を使い見ることができる彼女にとっては、スマートフォンの拡大機能とはまた別の見えづらさを解消する新しい方法になっています。

広く見たいときは等倍で、より大きく見たいときはズームを使い、
仲間たちの試合を楽しんで応援できました

今までの「拡大をして何とか見る」というひとつの選択肢から、網膜に直接投影をして「楽に見て楽しむ」という選択肢が増えることで、また新たな見え方、楽しみ方ができるロービジョンのある方は、もちろん彼女だけではなく、日本中、世界中に沢山います。網膜投影により、今までとは違う見え方で、今までよりも楽に見て楽しむことができる、沢山の方たちのもとへ、網膜投影が届き、新たな選択肢としてご活用いただけるよう引き続き活動を続けていきます。