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1022「恩赦」

朝、子供たちが全員学校とか幼稚園に行ってから、妻とミッドタウンのかかりつけ医に健康診断に行った。歯を食いしばって採血をしのいだ。採血というものは本当に無理だ。多面的に嫌だ。最近リバウンドで太っているので、看護師さんが静脈を発掘できない可能性もある。そうなると、ああでもないこうでもないとか言って、何度も何度も針を刺されることになる。最悪だったのは、数年前左腕で採血しようとして3回くらい左に刺した末に「いやー無理だわ」なんて言って右腕に移行されたことがあった。それでは私の左腕は無駄死にじゃないか。私の左腕をどうしてくれるのか。

しかし泣いても笑っても採血だ。毎回、SIXの日野さんが以前書かれていたこの記事を読んで対策するようにしている。この記事にはとても大事なことが書いてあると思う。「血管細いねー対策」とか、とても効果的だ。あと、これに加えて私はいつも予め、待合室で腕をペチペチして温めたり、痛みに慣らしておくことにしているが、今日は待合室でやっていたら、妻が一緒だったので「やめなさい!」などと言われて止められた。「いま容器何本目かな?」とかもすごくわかる。

ドキドキしながら本番を迎え、針が刺さった。「あの・・・出てますか? 大丈夫ですか?」と聞くと「出てます出てます。すっごい少しづつですけど、出てますよ。」と言う。一発で成功するにはしたらしいが、「すっごい少しづつですけど」というのが気になった。そして案の定、やたら時間がかかっている。「うーん。出が遅いわねえ」なんて言われて、針をもう一押しされた瞬間は、つらすぎて、怖すぎて、どうにかしなきゃと思って、反射的に笑ってしまった。本当に怖いときは笑ってしまうというあれだ。ちなみに今日の病院は看護師さんが日本語をしゃべる日本人向けの病院だったので、「うーん。出が遅いわねえ」みたいな言葉は日本語で伝わってくる。するっと頭に入ってくるぶん、より辛い。

そして、時間をかけつつも採血が終わった。フーッと一息つく。そんな、弛緩のひととき、看護師さんが言った。

「あ、皆さんにお聞きしているんですけど、インフルエンザの予防接種受けていきます?」

耳を疑った。気分的には、弾幕降り注ぐ戦場をやっと潜り抜けて安全地帯にたどり着いたところだったのに、この看護師さんは、「もう一丁戦場出ときますか?」みたいな意味合いのことを言っている。

「あの、いや、けどそれってお高いんでしょう?(笑)」

「いや、タダですよ。ニューヨークは予防接種タダですから」

お金がないことを理由に逃げようとしたが、まあ無理だった。決定的だったのが、

「奥さんはやるって言ってますよ?」

別室にいる奥さんの意向が伝わってきてしまった。そうだ。当然私に薦められるということは妻にも薦められているというわけで、3児の親としては、妻的にも私的にも本来選択肢なんてありようがないのだ。どっかでインフルエンザもらってきて子供にうつしたりしたら家中パンデミックになってしまう。子供にとってインフルエンザは大事だ。親として、そもそも予防接種を受けないという選択肢がない。受けなきゃダメだ。

しかし、なぜ今日なのか。日本では即位の礼が終わったところだ。そこは恩赦だろう。今日のワクチンは恩赦でいいのではないか。ましてや採血直後でMPがもう残っていない。

いったん拒否することもできるだろう。だから「受けますか?」と聞かれているのだ。しかし、今日は妻が一緒なのだ。仮に「今日はやめときます」と言って待合室に戻って妻と再開した時に「インフルワクチンやった?」と言われて「いやー今日は日が悪くって、今度にしとこうかと・・・」などと言った日には、その場で首根っこを掴まれて、看護師さんに「この人は今日受けますので、よろしくお願いします」なんて言われるに決まっているのだ。つまり、どのみち、逃げられるような状況ではなかった。

子供は病院で注射が終わると、シールもらえたりとか、何がしかご褒美をもらえがちだ。それで言うと今日は2本も針を刺した。何かご褒美が欲しい。日本の健康ランドに行きたい。

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